表記について

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2

思ったより軽く開いた扉に、拍子抜けするような気持ちになるも。
顔を上げてみると、その理由がすぐに解った。
「…参りましょうか」
開きかけた扉の上部を空いた手で支え、間近で見下ろす瞳。
反射的に頬が紅潮するのは……。
先の見通しの立たない迷宮へと踏み入れる故の緊張か、それともーー。

扉をくぐった先に広がる石造りの通路はあまり広くはなく、そして薄暗くとても静かで。
ただ、私達の足音だけがこだまする。

互いに何も言わず、でも……しっかりと手を握りながら。
周囲をほんのり照らすランタンの灯りと、行く先から僅かに漏れる光を頼りに歩き進む。

繋がれた手は力強く、そして暖かい。
この手の感触は確かに、以前感じていたものと同じ……。

ーー今でも彼の気持ちは…変わっていないというの…?
そんな淡い期待を抱きながら、ちらと彼の横顔に横目で視線を送る。

と、思いがけず視線が合った。
ーーまるで、川の流れが緩やかに混ざり合うように。
「ーーセツナ様?」
「……いえ…、なんでも……。ごめんなさい……」
彼は微かに、口元だけですっと微笑んで。
また、足を進める。
一拍遅れて、手を引かれるままに私も歩く。

どうして、目を逸らしたくなるのだろう。
そして何故、謝ってしまうのだろう……。
私は、この身を捨ててこのひとと離れるつもりで……。
でも、出来なくて。
それがとても、自分でも情けなくて。
……けれど、やっぱり一緒に居られて……。

ーー複雑な気持ちの堂々巡り。
この間近な距離での、見透かされるようなその視線が少し…怖い。

私はどこまでも、自分勝手でわがままだ。
ーーなのに。
「ーーどうして…?」
呟いてしまい、慌てて更に深く俯く。

胸の詰まりの苦しさに、ぐっと手に力を入れるとーー微かに金属の擦れ合う音がした。
……あの日交わした指輪……。
確かな形になって在る、想いを交わした証。

そう思うと、余計にたまらなくなり…。
瞼の奥から溢れ出そうとする、根底にある想いの欠片を。
どうにか零すまいと、痛い程唇を噛みしめた。

それでも止められず流れ落ちたそれをーーせめて薄闇に紛れて見られない事を願った。

「何か…聞こえます」
彼の手が離れた。
ーー良かった、気付かれてない。
喉の奥がしゃくり上げるのを必死に堪えながらも、小さくほっと息を吐く。
「見てきます」
俯いたままの私の濡れた片頬に、暖かい手がそっと触れた。
ーーそう、彼の手が。
「ーー!」

彼は何も言わず、先の様子を伺いに進む。
"泣かないで下さい"
あの日の言葉を思い出す。
また、そう言われているようなーーさり気ない優しさに。
じわりと胸が熱くなる。

ーーああ、私は…。
まだあなたに恋していても…、いいですか…?
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