表記について

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6

「すみません…、驚かせてしまいましたね」
優しく、囁くような声。
そして、微笑むように緩む彼の表情に、柔らかい眼差し。
ーーそれらとは逆に、私の顔は固く強張ってゆくのが分かる。

……お願い……。
震える手でそっと彼の胸を押し、俯き目を逸らした。
「そんな目で…」
「……?」
彼が一瞬、私の表情を伺い覗き込んで来るような気配。
……見ないで…!
言葉に出すのもそこそこに、反射的に走り出していた。

もう、気持ちに区切りを付けようと決めたのに……。
ーー抑えられなくなってしまう……!

ーーとても、目を合わせては居られなかった。
「…やっ…!」
階段を駈け降り、また先の曲がった通路でーーいとも簡単に後腕を掴まれた。

振り解こうとしても離れられないのは、先程と同じ。
ーー更にぐいと、その手に力を込められるだけ。
「離して…?」
返事はない。
「……お願い……、もう……」
それでも彼の方へは振り向かず、掠れる声だけで懇願してみる。

「離しません」
私の想像に反して…彼の言葉は努めて穏やかだった。
つられて、抗おうとしていた力が抜けてゆく。

「…離しません」
囁くように、ただ…もう一度繰り返された言葉。
けれど今度は、どこか根拠のある力強さが交えられているような…。
何故だかそんな気がした。
「……どうして……?」
やはり、顔は見れない。
……そして。
つい口にしてしまうのは…そんな疑問詞ばかり。

ーー本当に、分からなかった。
「だって…、私は……」
旅を続けるうちに、見てきたこと…聞いたこと。
それらを照らし併せて考えると、彼にこれ以上傍に居て貰う事など…。
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