表記について

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8

少しして、彼の優しい手が肩に触れる感覚に、ゆっくり目を開けた。
「ーー今すぐにでも…。お話したい事があるのですが」
すっと、彼の体が離れた。
声に、少し緊張感が混じっているように聞こえる。

……どうしたんだろう…?
あまり首は動かさず、おずおずと視線だけを上げてみると……。
彼の優しい光を湛えた瞳は、まだ私の顔を伺い視ていた。

ーー今更ながら、ではあるけれど。
気恥ずかしく感じ、俯いてしまう。
そんな私の頬を、彼の優しい掌がさらりと撫でる。
「今は……、そうも言っていられないようです」
ますます頬が上気して、とてもそのまま向かい合っていられない。
慌てて彼に背を向けた。

「ーー聞こえますか?」
「……?」
抑え目の声、そして僅かに身構える気配。
ちらと横目を向けると、彼の視線はいつの間にかーー通路の先へと向かっていた。
曲がり角の先を覗くように体を伸ばし、その視線の先の様子を伺おうとする私の腕を、彼が軽く掴んで止めた。
「この先ーー魔物が居ます。多勢です」

ただならぬ気配漂うこの島の迷宮は、やはり魔物の巣窟ーー。
先程の自分の短絡的な行動を思い出し、改めて冷やりとした。

沸き起こる緊張感と共に、今度はなるべくそっと様子を伺ってみる。
出口を抜けた先、広い空間にはーー確かに魔物の群の存在が確認できた。
先程の変種の狼と違い、ゴブリンやサイクロプスと云った、半島でも見覚えのあるものだったけれど…。
巨体を誇るサイクロプスと一緒に多数のゴブリンを相手にするとなると……。
限られた空間しかない此処では、少し間合いが狭い気がする。

ーーそれでも此処を通る為に、交戦は避けられない。
ごくりと唾を呑んだ。

庭園らしき広間を、魔物が徘徊する光景を見守って…。
それでもどうにかしなければいけないと云う考えが、気持ちを焦らせる。
そうしていると、アツシさんの手がそっと肩に置かれるのが横目に入った。

「まずは私が引きつけます。その隙に…援護をお願い出来ますか」
彼の声は、この状況下でも至って落ち着いていた。
……でも……。
「……待って!」
静かに、けれど足早に通り過ぎようとするマントの端を、慌てて掴んだ。

あの中に…ひとりで飛び込むのは…!
静かに振り向いた彼の目を、そう問いかけるようにじっと見詰めた。

どうにかしないといけないのはーー分かってる。
だから無闇に、反対も出来ないけれど……でも。
どうしても、不安が拭えない。
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