表記について

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10

魔物の脅威から守ってくれた強さとその暖かさに、微かな笑みを返しながらも…。
まだ何も見付けられない事実を、軽くかぶりを振って応えた。
……その時。
「…これは…?」
通路の間に架けられた、吊り橋の向こうから。
訝しげなアツシさんの声が聞こえてきた。
皆一様にそちらを向くと、手を振る彼の姿。
そこに……何かが…?!
三人で頷き合い、足早に歩を進める。

ーーばさり。
羽音と…何かが体を払い打つような感触。

急速に視界が回る。
次いで、体がふわりと浮いた。
「……え…?!」
滑空する、白い翼が掠め見えた。
ーー何が……?

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浮いた体はそのまま、空虚な空間を泳ぐようにどこまでも漂う。
「セツナ!!」
「覚者様…!!」
皆の呼び声が聞こえる。
そして、まるで時が止まりかけているような動きで見えるーー駆け寄る彼の姿。
でもその姿も、やがて小さくなる…。
背中はいつまでも、通路の石床に当たらない。
風を感じ、そして体の感覚が感じられない無重力感。
…ああ、そうか…。私は……。
自分の置かれた状況が、やけに冷静に掴める。

ひゅうひゅうと耳元で鳴る風切り音。
けれども、流れ遠のいてゆく天井の光景はゆっくりに感じる。
ーーでも、実際はきっともう…。
そう思った刹那、視界がぼやりと揺らいで遠のいてゆく。

「覚……様……!」
微かに聞こえるのは…ルインさんの声?
「ーーナ…、セツナ…!」
続いて、はっきりと近付くーーアツシさんの気配と声。
そして自然と伸ばしていた腕に、何かが触れた。
「……クソっ…!セツナーーー!」
墜ちゆく意識の中ーー。
体が温かな感覚に、強く包み込まれたような気がした。

ーーこの感覚…知ってる。
暗転した筈の意識の中、はっきりと思考が動く。
真っ暗な視界に一条の光が射しーーやがて何か聞こえ始めた。

「…様…。姫様…!」
わたしを呼ぶのは…誰?

そこでまた別に、はたとその違和感に気付く自分が居る。
ーー姫…様……?
私はただ漁村で育った者であり…覚者と呼ばれる立場ではあるけれど。
それは本当に…私のこと…?

やがて厚い雲が微風で流れるように、ゆっくりと視界が晴れ始める。
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