表記について

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3

どこか嫌味にも聞こえる、その一言。
けれども…、私に反論する余地はない。
実際その人の話では、その予想が当たった試しは……。
「せいぜい、気を付けることだな」
改めてニヤリと笑うその表情の、ただその目は笑ってはいなかった。

この先へ進む事がどれだけ困難か、全くの第三者からもこうして忠告された。少し気が重く感じながらも、それでも私は…。
後味の悪さを感じながら、ただ会釈を返し背を向けた。

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そっと、肩が暖かさに包まれる。
「ーー行きましょう」
その後もう一度、そっとーーでもしっかりと握られる手。
口数は少ないけれど、確かに伝わってくる彼のことば。
ーー暖かい…。
「…ありがとう…」
歩調を合わせてくれる彼と共に、ゆっくりと階段を降りる。
焦らず、少しずつでも…この迷宮の探索を出来る限り続けたい。
何も言わず側に居て守ってくれる彼の気持ちが、嬉しくもあり申し訳なくもあった。

長い階段を降りきった先は、緑豊かな広い庭園になっていた。
まるで半島の野外を歩いているような、穏やかさすら感じる。
月明かりしか届かないこの場所にもーー木々や茂みなど緑が生い茂り、兎や鹿などの動物が居る。
此処にはどうやら、魔物は居ない。
先行き不安なこの迷宮の中に、このような場所が有る事に驚きながらも…。
しばしの間の憩いに、少し気持ちを和ませることが出来そうだった。
それでも、先へ進む道は探さなければならない…。
現実はすぐ隣り合わせだ。

「…私も、先の方と同様…」
辺りを見渡しながら、彼が口を開いた。
「これ以上先へ進む事への…懸念はあります」
「……… 」
その意見は最もなもので。
視線を合わさず、ただ小さく頷いた。
「ーーけれど私は、あなたの…」
不意に兎が目の前を横切り、歩みと一緒に話も止まる。
「いえ、また後程ーー帰ってからにしましょう」
そっと横目に、彼の表情を伺い見る。
少なくとも、その横顔はとても穏やかで。
その目には小さな兎と……他にも何かを映しているようだった。
彼は何を言おうと、そして脳裏に何を浮かべ居るのか…。

ーー彼自身の口から語られる機会を、楽しみにしておこう。
何故かそう思える、柔らかな表情だった。
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