表記について

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10

イオリが先んじて、恭しく胸に手を当て一礼した。
「ーーイオリと申します、姫様。どうぞ宜しくお願い致します」
「…アヤと申しますわ…イオリ様」
此の場では初見ながら、素直に互いに礼を交わし合う二人。
巫女王も御簾越しに、満足気な表情を浮かべ小さく頷く。
そして皆そちらを向くよう滑らかに手をかざした。
衣裳の袖口の小さな鈴が鳴り、三人が視線を向けた。
その後、巫女王は再び口を開く。

「……アヤ。其方ももう十と八つ、成人の身となりました。そこでーー」
そうして巫女王の紬ぎ出した言葉に、姫の表情が徐々に晴れてゆく。
「今後は、たまにであれば城の外も視て廻ると良いでしょう。見識を広める事もそろそろ必要となろう…」
今まで殆ど外界を知らずに育った姫にとって、何よりも悦ばしい出来事。
巫女王の言葉に、そして広間の大きな窓から射し込む光に…姫の瞳が輝き、頬が上気してゆく。
「…母様…!」
姫の様子に、静かに目を細める巫女王の密やかな表情は…。
一国を統べる主と云うよりも、ただ一人の母親が愛娘に見せる柔らかい表情だった。

「…そして、アヤ。其方もこれからの自身の身の振りを…ゆっくり考えてゆくと良いでしょう」
そして、そう巫女王が告げたどこか深みのある一言に。
姫は微かに首を傾げながらも、はい、と小さく答えた。
「ーーイオリ。シキ。其方等にはくれぐれも…。今後もアヤの事を頼みます」

巫女王に向けられた真摯な言葉に、居並ぶ二人の青年はちらと互いの顔を見合わせ…。
「はい。…仰せのままに」
「ーーはい、誓って」
揃って一礼と共に応えた。
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