表記について

・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。

2

「ーーシキ…!どうして此処に?」
「どうもこうもありません」
上目遣いで恐る恐る訊ね掛ける姫にーー。
シキと呼ばれた青年は低く、けれども強い口調で答える。
「おひとりで何処へ向かわれるのです? 勝手に抜け出されては…」
溜息混じりに小言を言おうとして、姫の悲しげな様子に口を噤む。
「わたくしも…、たまには自由に外を歩いてみたくて…」
「ーーですが、姫様」
少し困った表情を浮かべながらも、シキが再び口を開く。
「もし、万が一に…です。よくお分かりでしょう」
すっと目を細め、姫を真っ直ぐ見据える真剣な目線。
その静かな圧力に耐えきれず、姫は俯き目を逸らす。
暗い表情とは裏腹に、潤みゆく瞳は美しく輝く。
「……ええ…。でも……」
「もし姫様の御身に何かあれば、巫女様もどれだけ嘆かれることか…。あなた様にお仕えする私とて、それは同じです」
元々穏やかな性格の持ち主であろう青年の、その眼差と口調に少し柔らかさが戻る。

ーーシキーーと名を持つ術師の青年は、此の城の"お抱え"であり…。
また、姫巫女の教育係として幼少より仕えてきた、姫にとっての "師" でもある。
良くも悪くも大事に匿われ、あまり表に出ることの無い姫の。
時には良き話し相手、そして時にはーー。

「……シキはいつも…」
「ーー姫様?」
姫はその着物の袖が濡れるのも構わず頬を拭い、薄紅の唇をきゅっと噛み顔を上げる。
「お小言ばかり…。どうして…?」
「……姫様……」
シキの表情に一瞬の動揺が走る。
「ずっと壁に囲まれて…。いつも窓から外を眺める事しかできなくて…」
琥珀色の大きな瞳にすっと影が落ちる。
シキは黙して、ただじっと耳を傾けている。
「だからせめて今宵くらい…。夜明け前まで…いいえ、ほんの少しでも…。あの、いつも見える木の下で月光花を眺めるだけでも…。そう思っただけなのに…」
「…お気持ちは…。けれど戻られねば皆、ご心配なさります…」
姫の表情が再び、悲しげに歪む。
「………!」
「姫様!」
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。