表記について

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3

姫はその伏せた双眸に、涙を溜めたままきびすを返した。
そのまま、行く先に延びる階段を駆け降りてゆく。
流れの上での咄嗟の展開に、シキも一時動けずに居た。
決して速くはなくも、姫はやはり滑らかな動作で階段をーーと思われた、その時。
いつもは為さない動きに、足がもつれたのか。
それとも、長い着物の裾が偶然絡まったのか。
「ーーえ…?」
「ーーー!」
階段の、ちょうど中ほどあたり。
姫の体が突然ふわりと浮いた。

「ーー様!…姫様…!」
シキが必死に手を伸ばすも届かず…。
ーーけれど、次の瞬間。
「危ない!」
矢のような速さで、赤い影がーーまるで滑り込むように駆け昇る。
「ーーあ…!」
細身の姫の体は丁度その人影の…腕の中に包み込まれるように見事収まった。
その衝撃に体が揺れはしたものの、その場から転落する事は無く済んだ。
ーー二人はお互い急な事態に、直ぐにはそのまま動けず居た。

「……大丈夫ですか?」
姫のこめかみ近くに流れる、低く穏やかな声。
自身の置かれた状況に気付き、はっと顔を上げる。
目の前にはーー見知らぬひと。
そして、自分は不意の出来事とは言え、その腕の中に…。
その目がただ見開かれ、まだほんのり涙の痕に濡れたままの頬が紅潮してゆく。
何か言おうとするも、ただ口が微かに震え動くばかり…。

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「お怪我は?どこか痛みませんか?」
「………」
姫は未だ呆然としたまま、黙って首を振る。
そんな姫の様子に、目の前の青年は不思議そうな表情を浮かべながらも。
優しく、目を細めそっと微笑む。
「ーー良かった」
「………」
「立てますか?」
こくんと短く肯き、姫は肩に回された青年の腕の介助を受けながら立ち上がる。
その間も、瞳にはずっと青年の姿を捉えたまま。
そしてそれは、相手も同じだった。
しばし見詰め合う内、先に口を開いたのはーーやはり青年の方だった。
「…あなたは?」
「……えっ…?」
対面して初めて、姫の口から漏れた短くも涼やかな声に。
青年は、ややほっとした笑みを浮かべた。
その後更に続ける。
「どちらの御方でしょうか?ーーせめてお名前だけでも」
至って真面目な質問だった。
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