表記について

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4

肩に添えられたままの手が、すっと微かな動きでーー姫の頬の涙の痕を拭う。
もはや姫は、直ぐ目の前の青年の瞳を正視出来ず俯いてしまう。

「ーー失礼。私はイオリと申します。お美しい方…」
ーーこの青年は、姫の顔をちゃんと知らないのだ。
けれどそれは、あまり表に出ることの無い姫を相手にしているのだから、無理もない事だった。
「…あの…。わたくし…、あの……」
震える声では、もはやその口から出る言葉は形にならない。
姫がもじもじと指を絡ませ合う両の手を…片方。
イオリと名乗った青年が、すっと滑らかな所作で優しく取る。

「先程、来賓の方を数名…城門までお送りして参りました。あなたも何処かへお帰りに?」
その言葉に姫は顔を上げ、再びイオリに目を合わせ見詰める。
「……あなた様は……」
目を丸くする姫に、イオリが少し首を傾げた時。

「ーー姫様。もう戻られませんと」
姫の肩越しに近付く足音、シキの声。

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ーーイオリの目が、その言葉に大きく見開かれた。
「ーー姫…様…?!」
そのまま二の句が繋げないでいる。
ーー姫はどこか寂しそうに俯き、また黙り込む。
その横を静かに過ぎ、シキは落ち着いたままの表情を崩さず進み出る。
「……そうです。この御方は、我らが姫巫女様…。危ないところをお助け下さり、ありがとうございました」
手を胸に当て頭を垂れる、シキの恭しい礼を伴う仕草はーーその言葉の真実味を更に増す。
「ーーいえ。当然の事をした迄です」
シキ同様に儀礼的に応えながら、その目は姫の方へと僅かに逸れる。
姫とイオリ、二人の視線が交錯する。

瞬時に、そっと伏せられ影が落ちる姫の瞳は…。
"ごめんなさい"ーー何故かそう謝っているようにも見えた。
そのどこかやるせない様子に、イオリの表情も曇る。

その間も、淡々とシキの話は続く。
「本来なら、貴方の行いには看過出来ない部分もあります。ですが…今日此の場での事はどうか内密に願いたく。従い、不問とさせて下さい」
口調は穏やかながら、イオリを見据えるその視線は鋭い。
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