表記について

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8

けれどそれに対し、姫の表情は明るかった。
シキは一瞬、拍子抜けしたような困惑の表情を浮かべ……。
けれどもその笑顔に釣られるように、目元が微かに弛む。
「……だって…」
姫は少しはにかみながら、俯き目線を泳がせた。
「……先程、あの方が…」
シキはそこから僅かな間、考えを巡らせていたーーいや、それ程時間は無かったかも知れないーー。
「……… 」
直感的なものが働いたような速さで、シキの表情が凍り付く。
「イオリ様が…。中庭を歩いてゆかれるのが見えて、それで……」
姫の言葉の流れと共に睫を伏せた目を逸らし、シキは惰性で姫の腕を握っていた手をそっと離す。
「ーー姫様」
そしてやんわりと、それでいてはっきりと姫の話を遮る。
「巫女様がお呼びです」
それだけ言うと、そのまま静かに踵を返し扉へと向かう。
「母様が…?」
「はい」
そして取っ手に手をかけ一度僅かに振り向き肯くとーー直ぐにまた視線を落とす。

「ーーイオリ殿もお待ちです。参りましょう」
「…そう…。わかりました」
ほんのり語尾を上げながら返事をする、明るさの増した姫の声を聞きながら。
けれども振り向きはせず、無言で扉を開けるシキの目は……。

通路に射す陽が細めさせたのか、それともーー。
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