表記について

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12

もう暖炉の火は消え、炭と化した木切れがたまに朱く僅かな息を継ぐくらいだったけれども。

敷物の上、まだ髪に湿り気を帯びた頭を、イオリの堅く逞しい腕に預け。
服越しに温かさの伝わる胸に手を添え、目を閉じーーー。
姫は身も心も穏やかに、快楽の余韻に浸り続ける。
イオリ自身も、今現在確かに其処に在る幸せを、姫の額にうっすら残る汗と共にーー艶やかな黒髪を優しく撫でながら噛み締めていた。
姫は目を閉じてはいるが、たまに薄眼を開け、「…ん…」、と小さく息を吐く。
どうやら、眠っては居ないようだ。
黙って、柔らかな視線を落とし続ける。
……ただ……。
「…大丈夫ですか?」
囁くように、小さく声を掛けた。
「…はい…」
姫は僅かに上げた頭で目線を合わせ、力無く儚げに微笑む。
……少し、無理をさせただろうか。
傍に脱ぎ捨ててあった、すっかり乾いた朱いマントを手繰り寄せ、姫の肩口にふわりと掛けた。
「……すみません」
「いえ…わたくしも…。ありがとう…」
息を吐くような声で小さく答えながら、姫はイオリの胸にそっと顔を埋める。

ーーまたも、今更ではあるのだが。
静かに身を寄せ微睡む姫が、壊れそうにーー消えてしまいそうに感じて。
イオリ自身も更に隙間無く身を寄せ、強過ぎない力を加え抱き締めた。
彼の抱くその想いは、もしかすると……。
新たに"護り手"としての役目を請けた、自身の中に秘めた"覚悟"から来ていたのかも知れない。
「ーーアヤ様…」
姫を抱き締める腕に、もう少しだけ力が足される。
「この先何があっても……。私はずっとあなたと共にーー」
目を閉じ、姫の髪に口付けるように、こめかみの辺りに顔を埋める。
その言葉に、姫の肩がぴくりと動く。
「……イオリ…様…?」
姫の、何を言い出すのか、と言わんばかりの呼びかけに、イオリは答えず。
一度腕を緩め、身を少し離すとーー姫の冷やりとした額に軽く口付けた。
「……いえ、良いのです。何でもありません」

ーー知らなければ、それで良い。
私は私の、選んだ道をーーあなたへの想いを貫くのみ。

目を見詰めそっと微笑み掛けるイオリに、姫は不思議そうな目を向けながらも。
それにつられて、ただ黙って微笑みを返す。
イオリはその頰に手を掛け、もう一度優しく唇を重ねる。
そして二人は暫く、静かに言葉も無く口付けを愉しんだ。

雨風も弱まってきた気配に、どちらも既に先程から気付いていた。
また現実に引き戻されるような静けさの中ーー。
二人きりで幸せに浸れる時間の終わりの、名残を惜しむように…互いに強く抱き合いながら。
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