表記について

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4

春の夜風は、庭で逢うにはまだ少し肌寒くも……。
今の二人には、ただ心地よいものでしか無かっただろう。

「……姫様」
微かに揺れる花に目を移しながら、イオリは一度姫をそっと離し囁く。
「城の外にはまだ他にも…。野に咲く花も沢山あるでしょう」
姫が顔を上げ、熱に浮いた眼差しをイオリに合わせる。
「…今度一緒に…、見に行きましょう」
「ーーはい…!」
瞳を輝かせ明るく微笑む姫に、笑みを返すイオリの優しい瞳が再度近付く。
今度は互いに引き合うように、おのずと二人の唇が重なった。
イオリの手が姫の腰と後頭部に回され、しかと抱き寄せながら優しく髪を撫でる。
初めて覚える、姫にはまだ強いかも知れない、蕩けるような甘美な刺激に。
姫はそれでも懸命に背伸びするかのように、背に回した震える手で縋り付く。

未だ離れたくない、もう少し傍に居たいーー。
そんな気持ちを、更に重ね合うように。
固い抱擁で時間を止めるかのように二人は動かない。

星々の煌めきの映える闇夜に、ぼんやりと浮かび上がる美しい輝きを湛える蒼い花弁が……。
人目に付かない場所で一輪ひっそりと咲く花だけが、ただ静かに見守っていた。

想いを静かに交わし合う二人の夜は……ゆっくりと更けてゆく。


ーーそれでもやがて、別れの刻は来る。

イオリはしかと、姫のその身を改めて固く抱き締めた。
「ーー姫様…」
「……… 」
胸の中の姫が、ぎゅっとイオリの服を握る。
「そろそろ戻られねば…」
そう言いながらも、名残を惜しむように。
ただそのまま、腕の中の存在を服越しに伝わる温度で確かめる。
「……はい……」
どこか寂しげな答えに、イオリの腕に更に力が籠る。
きっと息苦しく感じながらも、姫の表情はーーただ別れの寂しさに曇っていた。
けれど、姫の立場上ーーあまり長すぎる長居も出来ない。

「ーーまた後日…改めて外へ出掛けましょう。きっと…」
「…はい…!」
一度顔を見合わせ、また再び抱き合う二人。
再会の機会を持てる間柄ではあるものの、その間少しでも離れるのが辛い…そんな表情を互いに浮かべて。

夜空の下に咲き誇る花に引き寄せられる、夜光蝶のように。
それらが花に留まり、焦がれ求めた甘い蜜を味わうように。
残されていない筈の残された時間、暫しの時をーー。
二人はもう一度口付けを交わし合い、互いの想いを刻み込むのだった。
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