表記について

・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。

6

「けれど、そうですね…。先日、巫女様が仰られていたようにーー」
つい姫に、甘い言葉を掛けてしまうのはーー。
「たまには外へ出られるのも良いかもしれませんね」
それを言えば、姫の表情が輝くのが分かっているから?
ーーけれど……。
「…いいの…?」
「ーーええ。ただし、おひとりでは…」
「では…、イオリ様に…」

柔らかな眼差しで振り返りつつあった、シキの表情が一瞬強張る。
頬に手を当て、その顔を綻ばせる姫の様子はーーシキの配慮に依るもので。
そして姫のその言葉は、予想出来なかった訳ではない筈だけれど…。
「……そう、ですね……。訊いておきましょう…」
ぱっと輝く、姫のその微笑みがーー却って心に虚しく響くのはーー。
「ーーシキ。ありが…」
「…では」
向き直らぬまま、早々に去る彼の表情には…。
一言では言い表せない、哀しみにも似た複雑な色が滲んでいた。

少し歩いたところで立ち止まり、唇を噛みーー黙って壁を拳で叩く。
姫の喜ぶ顔が見られれば、それで良かった筈。
"イオリ様にーー"
姫の言葉や態度が障ったのではない。
今まで保ち続けた意識を自ら否定してしまった、そんな自分がやるせない。

どこか後ろめたさに、シキは一度、姫の部屋の扉を振り返る。
ーーー、と。

ある場面が、まるで今目にしているかのように意識の中に蘇る。

"……イオリ様"
"ーーはい"
先日あの扉の前で、二人が交わした言葉は…?
それはよく聞こえず、シキには内容は分かりかねた。

ーーそれが、……もし……。

……そうだと、したら。

苦い想いが胸に収まり切らず、まるで口の中に広がるように感じる。
あの後二人だけの間に、何かあったとしたらーー。
姫の様子のおかしさに、納得が行く面もある。

ーーいや、思惑違いかもしれない。
……馬鹿な…。私はーー何を。

皮肉めいた、そして自虐めいた笑みをふっと零し、シキは小さくかぶりを振り、ゆっくり歩き出す。
彼が自分では気付かぬその顔は、決して……。
傍人や、"師"として見せるものではなく。

胸に複雑な想いを抱く、ひとりのーーーー。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。