表記について

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1

小屋の窓から射し込む光が、色付き始めた頃。
イオリがゆっくりと身を起こしざま、さり気無くそちらを見遣る。
「……陽が…傾いてきたのでしょうか…」
低い呟きが漏れる。
その気配に続いて、姫ものそりと起き上がりかける。
痛みとけだるさの残る体が、動きを鈍くさせる。
その体を掬うように、イオリが腕を回し抱き起した。
そしてそのまま、懐へ抱き寄せる。
「予定より…遅くなってしまいましたね」
「……ええ。でも……」
胸に手を添えしな垂れかかる姫の表情は、寂しさを浮かべながらも…。
「ーーわたくし、今とても…」
幸せに満ちていた。
イオリはまだ白い肌をさらけたままの姫の肩をふわりと包み、顔を埋めながらーー。
「そろそろ、本当に帰らなければーー」
その先を言うのを躊躇うように、一度言葉を呑む。
肩に触れるイオリの温かな唇の感触に目を閉じながら、姫も頬を寄せる。
「ーーはい…」
何度目かの、少しの余韻に浸った後。
「…アヤ様」
イオリがおもむろに、自身の胸元からそっと何か取り外した。
姫も、羞恥と快楽に溺れていた"事"の最中では、全く気付けなかったのだが…。
控えめな大きさの色違いの石が光る、ふたつの指輪が通されている首飾り。
イオリが手をくぐらせ下げると、微かな金属音が鳴った。
「……綺麗…」
僅かにでも光を受けた石は、透明感のある青と紫にそれぞれ輝いていた。
見惚れる姫に、イオリは微笑みその手を伸ばす。
「これを、あなたに」
そう言いながらそっと首に掛けられたそれを、胸に光る指輪を手で弄りながら…。
姫はそれでも、少し戸惑いの表情を浮かべる。
「ーーこれは?大事なものなのではありませんか…?」
「良いのです。それは私の…」
イオリの顔に、僅かに陰が射す。
「両親の形見です」
「…そんな大事なものを…」
姫がますます困ったように、首飾りを外そうとする。
その手を、イオリの手がふわと包み止めた。
「ーーあなたに、持っていて欲しい」
「…イオリ様…」
姫の目を見詰め、優しく囁くような……けれど意思の強さを感じる言葉に。
それ以上は口に出せず、そして断ることもできず。
姫はただ黙って頷いた。
ーーただ…イオリの深く強い瞳に、何故か哀しさが込み上げるのを感じながら。
その違和感の意味も、もう一度落とされた口付けによって優しく塞がれーー訊けなかった。
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