表記について

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6

一見、先の分からなそうな暗闇の中。
外界との境を築くように聳え立つ岩山と、靄に包まれたような空気が立ち込めるーー終わりは無くも、出口は存在する空間。
リムの碑石から立ち入った中に拡がる、”異界”の狭間。
その中を、目的を持ったしっかりとした足取りで迷いなく進む二つの影があった。
銀色の髪を持つ、女性がふたり。
赤い瞳は確かに出口を求め、先を真っ直ぐ見据えている。
そのうち片方が、ふと足を止めた。
「———あら?」
大きな杖を携え、身軽ながらもしっかりと作り込まれたローブを着た女魔術師。
穏やかな表情を湛える彼女から紡ぎ出される声は、鈴が鳴る音色のように涼やかで柔らかい。
「‥‥どうした、ルイン?」
その魔術師ーールインに呼び掛けたもうひとりは、風によく靡きそうな短髪に眼帯、剣と盾を携えた女戦士。
同じく身軽そうな装備を着込んではいるが、決して引けは取らなそうな‥‥隙の無い印象を受ける。
きりりとした外見を持つ彼女からは、低くも決して太くはない落ち着いたトーンの声が紡ぎ出される。
「いえね、イージス」
対してルインが名を呼んだ女戦士は、イージスと云った。
ふたりの、同色ながらもそれぞれに違った印象を受ける赤い瞳が向かい合い、視線がかち合う。
「‥‥お目覚めになられたのでは?」
「ん?」
ふふっと目を細めるルインの、問いとも囁きとも取れるような言葉に。
イージスも耳を傾けるように、ふと首を傾げる。

ーーややあって。
「‥‥。なあ、ルイン」
「はい?」
「———良かったのか?」
「‥何がです?」
そう訊きながらも、笑顔が絶えないルインに、イージスは小さく溜息を吐く。
そして、それでも落ち着きを崩さない口調で一言。
「私達は‥。今戻ってきて良かったのだろうか‥」
ーー微かに伝わってくる、甘い囁き声を感じるような気配。
時折伝わる、聞き覚えのある声に安心はするものの‥‥。
「ゆっくり話もしたいであろうに…邪魔ではないか?」
実際に見ている訳ではないのに、イージスは目の遣り場に困るようにさり気なく天を仰ぐ。
暗闇に包まれた無の空間の中では、上下左右すら分からないような状況ではあるが。
「——まあ」
そんなイージスの肩を、ぽんと軽く叩いて促しながら。
ルインはさらりと直線的な言葉を言ってのけた。
穏やかな声と雰囲気を纏う彼女ではあるが、物事の中心をいつも見据えているような強さも持っている。
「これからのお二人、きっと焦る必要はありませんわ。‥それに、アツシ様もきっと心得ていらっしゃいますから」

そう、二人は覚者セツナとその従者アツシと共に、島の探索を進めていた二人の仲間。
かつて、竜征任務での砦の奪還戦でも、共に激戦を潜り抜けたーー友、とも云える存在でもある。
二人は意識の戻らないセツナの回復を待ちながらも、一時領都へ戻っていたのだった。
任務の完遂と、それぞれ自身の休息。
ギルド内でも、よく息の合った行動性とその能力の釣り合い良さから多忙を極める二人は、此処へ来る前にも遠征任務をこなしたところだったのだ。
幸いにも魔物の侵入の無さそうな場所を発見出来た事と、あとは‥‥ある意味気を遣った、結果だったのかもだが。
意識を戻したセツナに、アツシが想いを遂に彼女にーーというのは、自然な流れだろう。
此処へ来てからの彼は、以前よりも格段に気持ちに素直になっていたのだから。
先の任務で同行した時には、ずっと想いのすれ違いを露わにしていた二人だった。
イージスとルインの二人は、仲の良い両人の姿を此処へ来る迄は直接見た事が無かったのだ。
「一時はどうなるかと思った頃よりは、余程良かったと思いますわよ。ね?」
にっこり微笑むルインの言葉に、嘘は欠片も無い。
そして、自分もそれには大いに納得出来ると、イージスもふっと微かな笑みを返す。
「‥‥ああ。全くな」
ゆっくりと頷き、また歩き出す。

”仕切り直し”とも云える、冒険に対する新たな意気込みと、絆を強めた二人と行動を共に出来る喜びと。
二人の前に光が射し始めるように、異界からの出口が明るく見え始める。
「——いよいよ、ですわよ」
「分かっている。抜かりはないさ」

イージスとルイン、二人の戦徒が続き揃って足を踏み出す先。
そこもまた薄暗い空間ではあるものの、微かに伝わってくる暖かな気配。
それと共に在る限り、我らの戦意は、そして心はどんな困難に遭おうが決して折れないのだと。
ーー改めて強く、けれど柔らかく胸に抱きながら。

「‥此処で、待たせていただきましょうか」
「——ああ」
口に軽く人差し指を当てながら、またふわりとルインが微笑んだ。
頷くイージスの表情も柔らかい。

後から気付けば、傍に清らかな水を湛え流れる泉が、静かに癒しの気配をそこだけに保っている。
だからこそ、思うのだろうか。
せめて、今だけは‥‥。

セツナとアツシの二人の気持ちが、今此処だけででも安らいで居られれば良いと。
自分達が信じて付いてゆく覚者の、そしてそのひとが大切に想うひととの、今と此の先を紡ぐ可能性を確かに守ってみせる。
「ーー流れる水の如く、か。」
昏い迷宮の中にも、清く流れ溜まる透明な泉の水を眺めながら。
イージスがぼそりと独りごちた。

ーーきっと後から駆け付けると約束した、あの者達が此処へ追い付いて来る迄は。
何も言わずとも、二人頷き合い微笑み合うイージスとルインの表情は‥‥。
それぞれに晴れやかでもあり、互いに頼もしくもあった。
絆の強さではーー二人にも、そして誰にも負けない。

一対の赤い瞳が、泉の水の輝きも受けて一層暖かく強い光を増しているように見えた。

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