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	<title>輪廻の誓い 〜NOVEL 2・探究の章〜</title>
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	<description>ドラゴンズドグマ・とある世界のものがたり。</description>
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		<title>★６</title>

		<description>巨大な石の魔物‥‥ゴーレムが崩れさった後…</description>
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			<![CDATA[ 巨大な石の魔物‥‥ゴーレムが崩れさった後の砂埃を見守る様にただ立ち尽くしていた私達だけれど。
それを倒したからと、此処でやることが終わったわけではない。
先程押し寄せていた人達ももう戻ってこないかと、去っていった方向にも目を遣り‥‥。
一番大事な事、この目の前の建物の中に居るとされる”人物”？の安否を確かめなければ。
それはルゥさんが一番心配していたことだし、私自身も此処まで来た以上、ちゃんと見届けておきたい。

「ちょっと、上行ってみない？」
ちょうど私が考えていたことを、ルゥさんが口にしながら樹上の建物を指さした。
はい、と短く答えながら頷き、アツシさんにも視線で意見を仰ぐ。
彼も黙って頷くのを見終わらない内に、先ずはルゥさんが足早に其方へと向かう。
大きな木をぐるっと回り込むように据え付けられた小さな板の階段を、一人ずつゆっくりと昇っていく。
ルゥさん、アツシさん、私、ヤオさん‥‥玄関先へと辿り着いた順に横一列に居並び、じっと扉を見据える。
心なしか、住居の中には人の気配が‥‥？
「——セレナちゃん、居る？大丈夫だった？？」
扉を軽く叩きながら、ルゥさんが声を掛ける。
‥‥セレナ‥‥さんという人が居るの？
名前からして、確かに女性だ。
ただ、”魔女”という二つ名が、その人に合うのかどうか‥‥。
思わず胸の前でぎゅっと自分の手を握りながら、ルゥさんがゆっくりと開けてゆく扉の先をそっと覗き込む。
開いた先ーーやはり外見通りさして広くもない空間に、様々な植物や瓶などが並べられている。
薬草、花、ハーブなど‥‥吊るして乾燥させていたり、何か作りかけていたかのように机に置かれている。
壁に沿っておかれた棚には、薬瓶のようなものや壺などが並んでいる。
魔女の薬‥‥とでもいうようなものだろうか。
ただ、少し前までは生活していたかのような暖炉の火さえついたままの空間にーーやはり人の姿はない。

「あれぇ‥‥？どこ行ったのかな」
一応部屋をぐるっと見回した後、ルゥさんはまた足早に今度は住居を出てゆく。
「う～ん、居ないなあ」
玄関先の縁側から、辺りを広く見回して‥‥もう一度下へと降りてゆく。
「‥‥あ、ルゥさん待って‥‥」
私達も慌てて後を追い、また階下の花園へと降り立った。
見落としているものはないかと、改めて周りを見回してみる。
もしかしたら、また別に小屋が有ったり‥‥？
ーーーと。
「ん、あれは‥‥？」
アツシさんがすっと指さした先、木の根元に小さな扉が見えた。
この木の大きさからしたら‥‥中に人が入れる大きさはしているに違いない。
皆で頷き合い、そちらへと一斉に向かった。

念のため、扉を軽く叩いてみる。
‥‥何も帰ってこない。
そっと扉を引いてみると‥‥微かに軋みの音を立てながら開いた。
中の様子はなんと、部屋ではなく曲がりくねって降りてゆく先の長そうな通路になっていた。
「‥‥行ってみよう」
ルゥさんの声に、今度は頷き合う間もなく私達は通路に足を踏み入れた。
今まで木の中に、先程のゴーレムに守られていた空間ならば、急に魔物が飛び出して来るという事もなさそうだ。
途中からは、やや急ぎ足になりながら進んでゆく。
そして、ちょうど木の中の空間を通り抜けたかと思う頃‥‥出口はまた、細い路へと続いていた。
此処も未だ森の続きという景色が、もう一尾視界に飛び込んでくる。
やはり、先の見通しのきかない‥‥うっすら霧の立ち込めた樹海。
ただ、来た道とは違って、魔物の気配は一切ない。
どちらかというと、神秘的な雰囲気すら漂ってくるような‥‥。

真っ直ぐ真っ直ぐ、私達は皆黙って先を急ぐ。
此の先に何かありそうな、胸の奥の小さなざわめき。
それがいったい何なのか‥‥。

答えは、視線の先に小さく見えて来た影が、何も言わずに物語っているようだった。
突き当りに在る墓石のような石のそばに、”人影”が、ひとつ、ふたつ‥‥。
「セレナちゃん！」
姿を見るや、ルゥさんが真っ先に声を掛けながら駆け寄る。
彼女の声を受けて振り向いた‥‥一人は、若い女の子？
そして、もう一人は‥‥近づいてよく見ると、体が透けている。
もしや、生きている人ではないーー霊体？

ただ、その人にも意識ははっきりとあるようで。
「‥‥あなたは、覚者ですね」
目が合うとにっこりと微笑み、そう語りかけて来た。
「え‥‥」
一瞬、言葉を失う。
「はい、そう‥‥ですが‥‥」
どうしてわかったのだろう。
ーーううん、私も、さっきから何と無く不思議な胸騒ぎを覚えている。
それはこの人の醸す、優しくもどこか切なげな気配から‥‥？
「私はかつて、竜と関わりを持った者ーーそう、覚者です」
私と、同じ。
生きて、生活するには何も問題はない。
けれど、竜と見え、そしてその竜にまた逢うための戦いと共に生きる事を余儀なくされた‥‥。
”普通”には、生きられない身。
覚者として生きる事が、自分から敵う筈もない竜に立ち向かった結果だとは分かっていても‥‥やはりどこかやるせない部分がある。
この人も、そうだったのだろうか。
そしてこうして、霊体となって此処にいるという事は‥‥。
何も訊けない私のもどかしさはそのままに、その覚者の女性はやはり静かに柔らかい口調で続ける。
「そして此処にいる娘‥‥いえ、セレナは‥‥私のポーンです」
「‥‥！」
思わず息を呑んだ。
老いて亡くなり、霊体となった覚者。
そして、きっと変わらず若い少女の姿のままのポーン。
私は覚者で、アツシさんはポーンで‥‥。
もはやよく分からない感情が、胸の奥でまた騒めき渦巻く。
ぎゅっと唇を噛み、目の前の二人の姿を見守りながら‥話の続きを待った。

その人は語った、ポーンは長い月日を過ごす内に覚者に似て来るのだと。
ーーそして初めには持たない「感情」が育ち、やがて”人”に近付いてくるのだと。
それを語る彼女も、セレナに自由に生きて欲しい、そう願って最期の際に魂を少し分け与えたのだと。
けれどーーそれだけでは、ポーンは”人”にはなれない。
自分自身の、生き方を願う強い意思が大事なのだと。
ポーンとは、覚者の意思に、そしてその生き方に何も言わずに従う存在。
”人”として生きるには、自らの生き方の指針が必要なのだと。

「それで‥‥あなたはどうしたいの？セレナちゃん」
話が終わり、鎮まった空間に、ルゥさんの静かな問いかけが響く。
暫く俯いていたセレナさんが、顔を上げた。
私達は黙って、その口が紡ぐ言葉を待った。

「私は‥‥」
一呼吸の間。
セレナさんは自分の胸元で手を組み、落ち着いた静かな声で続けた。
「私は、ルゥさん達の‥‥あなた達の姿を見ていて、思いました」
ずっと無表情に見えていた表情が、少し和らいだような気がした。
それは、彼女のやや弾んでいくような、しっかりとした口調にも感じられてくる。
自分の意思から紡ぎ出される感情が、彼女の表面に現れ出てきている。

「私もあなた達のように‥‥大切な仲間と生きたい。自分の生き方を選びたい」

その言葉とともに‥‥彼女の胸元が光る。
いや、違う。
彼女自身も驚きかざした手が、光っている。
「‥‥？」
「どうしたの？」
驚き覗き込む私達とは裏腹に、セレナさんの覚者だという女性は静かに微笑んでいる。
「‥‥セレナ、それでいいのです。これであなたは‥‥」
微笑みと共に、その姿が更に薄らいでゆく。
そしてやがてーー消えた。

「ポーンの印が‥‥消えた」
セレナさんが、掌を見詰めたまま誰にともなく呟く。


「私‥‥人間になるの‥‥？」
そして彼女は、様々な感情が入り混じったような、抑えた声でもう一度呟いた。
かつて彼女の主であった女性が消えた方向ーー墓石のある方をそっと振り向き、祈る様に首を垂れて。
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		<dc:date>2017-01-26T13:02:35+09:00</dc:date>
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		<title>5</title>

		<description>夜の闇も混ざり始めた暗く深い森を、とに…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 夜の闇も混ざり始めた暗く深い森を、とにかく木々の間をすり抜け草を掻き分け、奥まで進んで。
もう結構歩いたかと思う頃、ようやく木々の壁が途切れ‥‥。
その縁に立ってみると、自分たちのいる場所が少し高い足場になっていることが分かった。
軽く足元を見下ろすように視線を下へ送ると、森がぽっかり途切れた場所が、細かくも綺麗な花が咲き誇る庭園のようになっていて。
突然現れた幻想的な光景に、
「‥わあ‥‥」
と、思わずため息ともつかない声が漏れる。
「‥‥う～ん、此処は綺麗でいいんだけどね～‥‥まずは」
隣に居たルゥさんが、滑らかな手つきでその先を指差した。
けれどその細くしなやかな指先が鋭くも見えるのは、その先の息を呑む光景に感じるものからだろうか‥‥。

花園のすぐ先、まるで巨大な木をそのまま建物にしたような‥‥。
塔のような太い木の上に、小さな住居が載せられている。
庭に加えて、その建物にも引き続き驚きを感じながら。

そこで起こっていることをよく見てみると‥‥。

何人もの人が玄関先へと押し寄せ、口々に何か喚きたてている。
耳にするのも嫌なような、罵詈雑言の数々。
村を旅立つときにも聞いた、ポーンの民は人々から少し距離を置かれているという話、それも一瞬思い出すような。
‥‥どうして人は、自分の目ではっきりと確かめられないものを忌み嫌うのだろう。
どうして、少し聞いただけの話や想像だけで、勝手に決めてしまうのだろうーー。
”魔女”と噂されるものが、そう呼ばれる人が本当に居るのなら、あの人たちはその姿をちゃんと見たのだろうか？
そして、ちゃんと接してみたのだろうか‥‥？

かくいう私も、初めは少し接するのが怖かった。
けれど、その実情を見ているうちに、行動を共にしているうちに、少しずつ‥‥決して離れたくない、かけがえのないもの、に変わっていった。

もう一方の隣に立つ、その人ーーアツシさんの手を握りながら、目の前の光景をじっと見据える。
あの行動が見ていられない酷いものだとは思いながらも、私に、ただ彼らを非難することは出来ない。
私も、こうして冒険することが無ければ、ただ噂を耳にして偏見を持っていたかも知れないからだ。
そして、噂を耳にすることも無く、何も知らずにただのんびりとした生活を送っていたかも知れない。
ただ闇雲に正義を振りかざす気は毛頭ないけれど、でも‥‥。
ルゥさんが心配だと言っていたものが、多分”これ”なのだとしたら。
そして、ただ偏見を持たれて中傷されているひとが、あの中に居るのだとしたら。
‥‥このまま黙って見過ごすことは出来ない。

ーー握った手を、さらにやんわりと強く握り返してくれる彼も、きっと同じ気持ちだろう。

暫く黙ってその様子を見ていたけれど、意を決して皆の顔を見渡してみる。
黙って頷き、そしてにっと強く微笑みながら頷き、にっこりと笑い掛けながら頷き‥‥皆それぞれ、私の考えは分かってくれたようだ。
「‥‥行ってみましょう」
どういう風に言えば、あの人たちを穏便に止められるかはわからない。
けれどとにかく、このままでは中に居るかもしれないひとが危ない‥‥。
夢中で騒ぎ立てている人々の居る玄関先を先ずは目指しながら、緩い坂道を下りながら花園へと降り立った。

実際足を踏み入れてみると、小さな花弁を持つ可憐な花やハーブなどが咲き乱れ、蝶が舞い‥‥。
思っていたよりも、とても居心地のいい空間だった。
ただ遠くから見ている時より、更に幻想的だ。
けれど、汚いともいえる罵声も近づいてくるのが雰囲気に全く似つかわない上に、俗世間が無理に混じり込んだような違和感を覚える。
途端に気分を害してしまいながら、気に据え付けられた階段を昇ろうと足を掛けた時‥‥！

「－－？」
微かに、地響きのような音と揺れを感じた。
‥‥もしかしたら、旅疲れで足元がおぼつかなくなったのかとも思う、微かな揺れ。
けれど、他の皆も少し違和感を感じているようで、どうやらそれとは違うらしい。
では、一体何が‥‥？

―――ゴゴゴゴゴゴ‥‥。
大きなものが、ゆっくりと震え動くような音。
やはり、何か起こっている。
そして、ぱらぱらと小石が落ちていくような微かな音も混じりながら‥‥埃が立ち始めた。
その方向を、ゆっくりと確認してみる。

――何か、巨大な岩のようなものが‥‥あろうことか人の形を成して立っていた。
あれは‥‥何？？
驚きで呆然と見守ってしまう中、その異変に気付いたのは流石に私達だけではないようだった。

上の住居の玄関先に押し寄せていた人たちも、その異様な気配には流石に気が付いたようで。
「化け物だ――！」
「魔女の仕業だ‥‥！」
など、また更に口々に喚き立てながら、急いで階段を駆け下り一目散に逃げてゆく。
よく見ると、その手には物騒な‥‥クワや鎌などを持っていたらしい。
そしてあろうことか、領都の兵士に見受けられる人も混じっている。
なんと、醜い光景なんだろう‥‥と、思わずそちらに気を取られながら、黙ってその逃げてゆく姿を見送る。
今此処で起こっていることは確かに、とんでもなく現実離れした出来事で。
けれどそのおかげで、先ずは危機を脱したというところだろうか‥‥。
先程の、魔法の霧を発生させていたお守りのように、もしかしたらこの怪物も‥‥？

と、少しぼんやりとすらしながら考えに耽っているうちに、目の前の岩の怪物に変化が表れ始めた。
ぼんやりと、全体に紫の光を帯び始める。
その光はところどころ強い光を放つ場所と、筋のような細い光の通る場所がある。
まるで、石のその躰に動力となる血のようなものが漲るような‥‥。
その光が、くっきりと全身に行き渡った後。
‥‥オォオオオオオ‥‥と、空気を細かく震わせるような、低い声が響き渡った。
それと共に、太い腕を振り上げ‥‥。

「危ない、下がって！」
「来る！」
アツシさんとルゥさんが、同時に声を挙げた。
それと共に、怪物からは目を離さないよう、数歩後ろへ下がる。
すんでのところで、大きな拳から逃れることが出来た。
動きはゆっくりながら、勢いと重みのある一撃が柔らかな地面へと突き立てられる。
怪物がまた腕を振り上げるまでの間、前に立つアツシさんとルゥさんがそれぞれ長剣や弓などの武器を手に取り、構えて立つ。
「ね、ねえ。‥‥あれってさあ、やっぱり襲って来るよねえ‥‥？」
「‥‥だろうな。何とかして止めない限りは」

あの大きな岩の怪物を、何とか止めなければ‥‥。
これもまるで初めての経験に、思い掛けない相手との戦闘に、どうすればいいのか一瞬戸惑う。
けれどそれでも、彼らが鋭い武器を手に戦うように、私にもやれることは一つしかない。
魔法で‥‥援護する事、そして何か有用なものが有れば喰らわせる事。
「——セツナ」
「‥‥はい」
ちらと此方を振り向きながら促す彼に、私も杖を構えながら頷き答える。
そして、その手の武器へと向かって、加護の魔法を飛ばす。
アツシさんの剣、そしてルゥさんの弓にも、魔法の光が宿った。
「——ありがとう」
「セッちゃん、サンキュ～」
お礼を言ってくれながら、武器を改めて怪物に向ける二人の後ろで、そして次はヤオさんに‥‥と視線を向けた時。
彼は既に弓に矢をつがえていて、素早くそれを数本放った。
「ゴーレム‥‥こいつはねえ、よく見てて」
その弓が飛んだ先、それは岩肌の部分と、そして光が強く輝いている箇所。
岩に当たった矢はただ地に落ち、そして光る場所に当たったものはカチン、と小気味よく響く音がした。
巨体が、少しひるんだようにも見える。
「あの、光っているところに攻撃を当てればいいんだよ」
にっ、と笑い、得意げに親指を突き立てるヤオさんに、皆はっきりと頷き返し。
そして改めて立ち向かうべく、戦士二人は武器をその場所へ向かって構え直す。
「ねえ、君って魔法が使えるんだね～」
私も何か、と杖を構え直したとき、またヤオさんの声が掛かった。
「あ、はい‥そうです」
「じゃあさ、何か魔法お見舞いしてやるといいよ。何でもいいよ～」
「‥え、はい‥‥」
アツシさんルゥさんが、相手の攻撃を時折かわしつつも、光る場所へと狙いを澄まして少しずつ攻撃を当てていくのを見守りながら。
私は何をすればいいのか、少し考えを巡らせてみる。

あまりゆっくり考えている暇はない、出来る事の中から、最適なものを当て嵌めていかなければ。
まず思い付くのは、炎の魔法‥‥。
けれどそれでは、この花園に悪影響を出してしまわないだろうか？
そして次に、氷の大魔法‥‥。
威力は強いのだけれど、ちゃんと光る部分に狙って当たるのだろうか？
では‥‥。
最後に思いついたのは、あの魔法。
詠唱と共に漲る魔力を、全身から解放する。
「ーー雷の力を！」
まるであの怪物の放つような強い紫の光、雷を皆で纏う魔法。
これなら、アツシさん達の武器にも加勢しながら、私も大きな力を放出できる。

アツシさんが一瞬、此方を振り返り強く微笑む。
そしてルゥさんも、ヤオさんも。
にっこり微笑んで、更に次々と勢いよく矢を放っていった。
足元の方はアツシさんが、そして頭や肩先の方はルゥさんやヤオさんが、それぞれ攻撃を浴びせていった。
怪物の反撃は一見、力強く激しいものだけれど‥‥。
数々の戦いを潜り抜けてきている戦士二人と、そしてとても身軽なヤオさんからしたら、避けることは造作もない。

ーーオオオォオオオオォォ‥‥。
やがて怪物‥‥ゴーレムの体に巡る光が全て消え、またも低い唸りと共に砂のように崩れ去っていった。

辺りはすっかり静かになり、まるで何事も無かったような、ただただ幻想的な空間が拡がるのみとなった。
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		<title>４</title>

		<description>目の前の、木の根元の茂みが大きく揺れ、…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 目の前の、木の根元の茂みが大きく揺れ、何かが飛び出してくるように現れた。

「下がって！」
「ちょ、ちょっと‥‥もう！」
アツシさんとルゥさんが、同時に声を挙げた。
思わず後ずさりながら、そこに居たものに目が釘付けになる。

とても背の高い‥‥人？それとも‥‥？

「やあ、驚かせちゃったかい？あははは」
明るい笑い声、にっこり笑みを浮かべた‥‥ほっそりと背の高いーー男性？
「？？？」
アツシさんも、腕を下げ剣を地につけながらぽかんと見ている。
全く敵意は感じない、むしろとても友好的な‥‥。
「ちょっと、あんたねえ！びっくりするじゃない？！」
短剣を腰に納めたルゥさんが、指差しながらその人？に詰め寄る。
そして目の前に見上げ立つと、腰に手を当ててさらに続ける。
「もうちょっと、登場の仕方があるでしょう？セッちゃん達がびっくりしてるじゃないの」
ふう、と小さな溜息を吐くルゥさんとは逆に、その人はまた明るい笑い声を挙げる。
「あはははは、驚かすつもりはなかったんだけどさ～。ごめんねえ、あはははー！」

「‥‥‥」
その目の前の彼の底抜けの明るさに、私もアツシさんもただただ茫然と見守ることしか出来ない。
ひょろりと細い体つきに濃い茶色の肌、緑の髪‥‥その姿が表すものは。
「やあ、そっちの彼女たちは初めてだね～」
私達に交互に目をあわせながらにっこり微笑み、彼は一歩ずつ近づいてくる。
反射的に、一瞬びくりと肩肘が動いてしまうものの。
彼の好意的な呼びかけに、頷き返しながら表情を緩めようと努める。
「僕はヤオ。ーー木の妖精だよ」
「‥‥え‥‥」
「‥‥？」
やはり、どうにも言葉を失ってしまう。
それはアツシさんも同じようで、剣を納めながらも黙って彼の言葉を聞いている。
そんな私達を見て、今度はルゥさんがふふっと笑う。
「びっくりしたでしょ？‥‥そもそも、その存在だけでも驚くんだから、気を付けてよねー」
「やだなあ、ルゥちゃん。僕はいつも通りここで生活してるだけだよ～、あはは」
ルゥさんの半ば注意を促しているとも思える言葉にも、やはりさらりと笑いを交えた返事で応える。
とにかく、彼ーーヤオさんは、とても純粋な存在なんだろうな‥‥と思い、内心だけで胸を撫で下ろす。
けれどそんな中、ヤオさんが少し首を傾げながら、やや声の高さを落しながらこうも言った。
「‥‥たださあ、さっき、奥の方に沢山の人間が押しかけていったんだよね～。びっくりしたよ」
ルゥさん、アツシさん、私と‥‥揃って顔を見合わせて頷き合った。
そして、再びヤオさんの方へ向き直る。
「それ、どっち行ったの？教えてくれない？」
私達も、同意を求めるように彼の目を見ながら頷く。
それを受けて、私達の顔を見渡してからヤオさんは‥‥。
一瞬真剣な表情を見せた後、また大きな口をにっこりと曲げて破願した。

「‥‥いいよ、ついておいでよ。此処は僕の庭だからさ～あはははは」
「庭、っていうかさあ、そもそも此処に棲んでるんでしょ？」
ルゥさんは苦笑しながら、それでもどこか楽しそうだ。
こんな時に不謹慎‥とも思われそうだけれど、そんな時でも決して明るさを失わないところもルゥさんの長所だろう。
私もつい、ふふっと小さく笑ってしまう。
「‥‥あの、ではよろしくお願いします」
お辞儀しながらお願いすると、ヤオさんは長い腕を伸ばして私の肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「うん、任せてよ。ここは迷いの森とも云うんだけどね、僕に付いてくれば大丈夫さ～。あはははは」
「ーーはい、ありがとうございます」
付いて来い、というように、更に先へと身を翻すヤオさんに私達も慌てて小走りに続く。
その長身から踏み出す一歩が大きいのか、それともすっかり森に馴染み切っているのか。
はたまた、木々の根っこや茂みなど、全く障害にならないのか‥‥。
彼の足取りは足元の葉の音すらあまり聞こえない程、とても軽く早い。
「‥‥あっ」
何とか付いていこうと、とにかく彼の背中を見て付いていくうちに。
木の根か、石か‥‥思いがけず足元が何かに当たり、躓いた。
躰がぐらりと揺れたところに、素早く差し伸べられるーー逞しい腕。
「大丈夫ですか？気を付けて」
「は、はい‥‥ありがとう‥」
間近で見る見慣れた筈の柔らかい微笑みに、それでもまた少しどきりとする。
つい表情がふにゃりと緩みそうになり、慌てて目を逸らすと‥‥。
彼が片手をついている木の枝に、何かぶら下がっているのが見えた。
飾り‥‥？ううん、お守り‥‥？
紐で吊るされた六角形の、装飾された石のようなもの。
思わず其方に目を遣っていると、ヤオさんがまた軽い足取りで此方へ戻ってきてそれを見た。
彼の身長からすると、そう高くない位置にあり‥‥易々と手を伸ばしてその体つきと同じ細く長い指で軽く突いた。
「ああ、これね。この装具がこの森のあちこちにあって、霧を生んでいるんだよ。森を守るための呪い、みたいなものだね～」
そして私達ににっこりと笑い掛け、
「まあ、それも僕には全く関係ないけどね～。あははは」
と、今度は腰に手を当ててちょっと得意げだ。
彼の言葉や行動を見ていると、此処では本当に頼りになる存在であることは間違いないと思える。
その彼の肩を、同じく此方へ戻って来たルゥさんにぐいと引いた。
「ほら、威張ってないで早く案内して。‥‥セッちゃん、暗いし少し急ぐよ」
促すルゥさんの言葉に、私達も軽く頷いたとき‥‥。
ひやりと、何かが私の肩口の辺りを通り過ぎた。
「‥‥ちっ、出てたわね」
ルゥさんが素早く弓を手に取り、矢をつがえる。
アツシさんも剣を抜き、辺りを警戒するように見渡し‥‥。
「セツナ、武器に魔法を」
先程とは打って変わった真剣な様子に、急いで頷き杖を構える。
その間、聞こえて来る”声”のようなもの‥‥。
これは確か、どこかで聞いた事が、そしてこの気配も感じた事がある。
寒気を覚える気配と声、これはきっと‥‥。
「来るよ、気を付けて！」
ルゥさんの鋭い声。
ーー間に合った！
手から聖なる加護の魔法を、先ずは彼女の許へと放った。
それと同時に、一度に光る数本の矢が放たれる。
バシュ！と、空気の唸り弾けるような音。
そして、続いて空気を引き裂くような”叫び声”。
ーー霊体のような魔物、ファントム。
うっかりその姿を捉え逃すと、人やポーンにとり付き命をも奪う事のある魔物だ。
暗くなると現れる事のある、特殊な相手だけに‥‥遭遇した時の驚きはまた違ったものになる。
けれど、焦らず確実に追い払わなければ‥‥。
とにかく今私に出来る事、皆の武器に次々と籠の魔法を放った。
その度に、皆‥‥ルゥさん、アツシさん、そしてヤオさんもそれぞれの武器を手に、一体ずつファントムを仕留めていった。
ふわふわと宙を漂う、つかみどころのない相手とはいえ。
彼らの素早く力強い剣や矢さばきからしたら、その姿を確実に捉えてしまえば全く問題ない。
次々とファントムたちは爆ぜ、消えて行った。
皆、武器を納めながら、すっかり静まり返った辺りを小さい息を吐きながら軽く見渡す。
「ふう‥‥これで全部かな？やれやれ」
「みたいね、みんな無事ね」
少しの緊張感からか、森の霧が纏わる湿気からなのか‥‥杖を握っていた手は少ししっとりとしていたけれど。
ヤオさんやルゥさんの言葉は、先程の緊張感も瞬時に拭ってしまったかのように相変わらず明るい。
「さ、行きましょ」
そして何事も無かったように身を翻すと、また先を往き始めた。
「‥‥さあ、私達も」
差し伸べられたアツシさんの手を取り、手を引かれながら私達も進む。

この見通しが悪く暗い状況でまた、何が出て来るかわからない‥‥先を急がなければ。 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-11-13T13:21:22+09:00</dc:date>
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		<title>3</title>

		<description>険しい峠の道を、何度か通り慣れてきたと…</description>
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			<![CDATA[ 険しい峠の道を、何度か通り慣れてきたとはいえ、一応周りを警戒しながら歩き進む。
目に見えて襲い来る魔物だけでなく、自然と切り立った地形が生む脅威は他にもある。
暗くなってくると灯りも無いために見通しが悪くなるし、風化してくる岩からの落石もある。
目の前にだけ気を付けていてはいけない要素が、此処には多い。
身軽で動きの軽快なルゥさんや、逞しいアツシさんが一緒に居てはくれるけれど‥‥。
だからと云って、やはり私自身も最低限身の回りに気を付けなければいけない。
どこまでも、急な坂道や、先の見通し辛い岩肌が並び立つ状況で、半ば息をひそめるように歩いてしまう。

途中、やはり襲い来るハーピーなどの魔物たちを追い払いながら、最期の下り道を降り始めると‥‥少しほっとする。
峠の終わりには麓を流れる川の上を渡る橋が架かり、そのすぐ先には関所とされている兵士の営地がある。
お世話になった恩もあり、毎度会釈を交わして通るようにしている。
兵士の方も、やあ、などと短く声を掛けてくれるので、気持ちが少し和む瞬間でもある。
‥‥先日もカサディスからの行き道でこの峠を通ったはずなのに、その度に緊張したりホッとしたり。
今まで沢山旅をして慣れてきたつもりだけれど、まだまだなんだなとふと思う。

以前は、ルゥさん達と‥‥この下の川を沿って遺跡へと踏み入っていったけれど。
今日は川をすっかり超えて、木々の生い茂る海道の方へと進む。
たまに岩壁の間の隙間風が突風になる峠とは違い、此方は穏やかな海風が吹く。
こういう、景色や機構の移り変わりなんかも、歩いて旅をする楽しみと云えるだろうか。
そんなことを考えながら進むうち、路は二手に分かれて来る。
一つは、バーン隊長質のいる宿営地やカサディスの村へ向かう道、そして‥‥。
「‥‥ほら、あっちよ」
ルゥさんが、分かれ道を上から見渡せる位置から、一つの道を指さした。
今下り道になっている此処を下って、そしてもう一度登る道。
「‥‥はい」
まだ通った事のない其方の道の先には、一体何があるんだろう。
またじわりと緊張を覚えながら、やや急ぎ足で今居る坂道を下ってゆく。
そして下りきるのもそこそこに、その横に伸びている登り坂へと歩を移す。
そのまま、しばらく登っていけるかに見えたその道で‥‥。
「‥‥ん？！」
「わ、ちょっと！」
アツシさんとルゥさんの鋭い声が挙がった。
「‥‥え？あっ」
ぐいと手を引かれながら、皆で道の脇の木陰の方へと身を隠す。
「なに‥‥」
皆まで聞かなくても、直ぐに彼らの行動の意味が分かった。
上の方から低い音を立てて、そしてやがて目の前を大きな音を立てて、大きな岩の塊が転がっていったのだ。
坂道の上は逆光になっていて、見通しにくい。
自然のものなのか、はたまた誰かの仕掛けた罠なのか‥‥。
その答えは、近付くにつれ浮かび上がってくる。

「‥‥ちょっとお‥‥、危ないじゃないのよ！」
ルゥさんが先駆けて、素早く取り出した小弓で矢を射る。
ーーヒュッ、と風を切った矢は、先に有った一つの影に当たり‥‥その姿が沈んだ。
その後ろから、更に幾らかの影が騒がしく集まって来る。
‥‥盗賊‥‥？
そういえば、見通しの悪い山道にはつきものとも云えるほどだ。
すっかり、そういう旅をしていなかったからか‥‥ほぼ忘れていたといっても過言ではない。
「大丈夫、下がって」
アツシさんが、背中から剣を抜きながら微笑う。
何処か不敵に、けれど優しく。
「まあ、準備運動ってとこかしらね」
ルゥさんも、弓を一対の短剣に持ち替えてにっこり微笑う。
以前、遺跡への旅をした時と違って、私も戦えるのだけれど‥‥。
「はい」
ふたりの頼もしさに、そして安心感に、つい頷いてしまう。
ーー案の定、私は何をする間もなく、盗賊との戦いは終わってしまったのだけれど。

「さあさ、こんなとこでゆっくりしてられないわね。‥日が暮れる前に行かないと」
「‥‥ええ」
ルゥさんの言う通り、何時までも陽が高く昇っていてくれるわけではない。
行き先は、森だと言っていた。
となると、あまり暗くなると峠道以上に歩きにくくなるのでないか‥‥何と無くそう感じる。
登って来た道の先、今度は下り坂になっている道を、また少し急ぎ気味に歩く。

と、またその先は二つに分かれており‥‥。
一つは、右の方に平原と砦のようなものが見える道。
そして、もう一つ。
「‥‥あった、こっちよ」
ルゥさんが指し示した先は、うっすらと霧の出ている細道。
「‥‥はい」
答えを返しながら頷き、霧の漂う中へと足を踏み入れていきながら‥‥。
何と無く不気味な感じがして、自然と二人に寄り添いながら歩く。
「此処って、いつもこうなのよ。‥‥侵入者から守るためなのかしらね」
‥‥守る‥‥何を？
森を‥‥？それとも‥‥。

先がよく見えない暗い雰囲気ながらも、足元には綺麗な花が咲いていたり、ウサギがいたりする。
時折、カラスが羽ばたく音にびくりとしながら、高い木々や茂る草むらに覆われた細い道を右へ左へと進んでゆく。
そういえばルゥさんは、此処を知っていると言っていた。
だからだろうか、あまり道に迷うことなく真っ直ぐ前を向いて進んでゆく。
森が、そして霧が深くなってゆくにつれ、辺りも暗くなってきた‥‥。
いよいよ、陽が傾き始めたのだろうか。
周りを木や霧に覆われ、森の外の様子はすっかり分からなくなってきた。

二人の後ろを歩きながら、なんとなくアツシさんの腕にそっと触れるようにつかまり歩く。
気付いた彼が、ふっと小さく笑い、手を繋いでくれた。
初めて訪れる場で、この状況はやなり‥‥少し怖い。
ーーと、その時。
ガサガサガサ‥‥！
前方の茂みから、大きな音が立った。
「——？！」
思わず彼の腕にしがみ付いてしまいながら、息を呑んだ。
「今度は何？」
ルゥさんが鋭い声と共に短剣を抜いた。
「セツナ‥‥下がって」
アツシさんの言葉に、頷きながら‥‥ついしがみ付いてしまっていた腕をほどく。
それと共に剣を抜いた彼が、剣を前方に構えながらルゥさんの更に一歩前へと踏み出した。
‥‥ガサガサッ！
「‥‥？」
あと一歩手前の辺りで、彼は剣を構えたまま息を殺している。
何かが急に跳びかかってもいいようにだろうか、少し姿勢が低い。
その後ろで、ルゥさんも胸の辺りで短剣を交差させて構えて待つ。
ーーガサッッ！！
「——む、なに‥‥？！」
「‥‥っ！——て、えっ？」
「‥‥え‥‥？」

そこから出て来たものは‥‥。
一瞬、私達は何を見ているのか‥‥ある意味拍子抜けた感じのするその姿に、驚きで声を失った。
 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-11-02T14:36:53+09:00</dc:date>
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		<title>２</title>

		<description>「——いいの？」
先程までよりも強い、い…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「——いいの？」
先程までよりも強い、いつになく真剣な面差しでの低い声が返って来る。
まるでどこか、気が引けているような。
言ってしまった事で、面倒をかけてしまっているのではないかーーそう思うような。
それは、私がいつも考えてきた事。
ーーもしかしたら、そこまでとは違うかもしれない。
けれど、そうなのだとしたら。

「はい、私達も気になりますから」
頬を緩め、笑顔で頷いて見せた。
これも、私がいつも皆にして貰っていた事。
気になる事、困ったことに、いつも皆何も言わずに付き合ってくれて来た。
私もそうするのは当然だ。
「ありがとう‥‥セッちゃん」
少し強張り気味だった、ルゥさんの表情が綻んだ。
けれど次の瞬間、顎を引いた遠慮がちな顔つきになる。
「‥‥これから直ぐに、向かっても？」
強くてしっかりしていて、それでもやはり‥‥。
ルゥさんには少し悪い気もするけれど、女性らしい、可愛らしい部分も垣間見えてくる。
つい、ふふ、と笑ってしまいながら。
「はい、勿論です」
もう一度、しっかりと頷いた。
「‥‥ありがとう」
ルゥさんの、ふんわりと優しい笑顔が広がった。


食事を終え、アースミスさんに直接お代を払いながら、また来ますと言い残して店を出た。
「あいよ、気を付けて」
と、笑顔で見送ってくれる姿を背に、もう一度会釈を返してから一度立ち止まる。
店を出てすぐ目に入る噴水の周りには、もう先程の話をしていた人はいない。
「‥‥さて、どうしましょうか」
「え？」
ルゥさん、アツシさん、二人の方を振り返り、自然と円陣を組むように立つ。
二人の顔をちらと見まわしながら、今からどうするかを考える。
「‥‥もう一人、どなたか来て頂くか、それとも‥」
店を出て、左の通りからの門を潜れば、ポーンギルドもある。
そこでもう一人、旅の仲間を募るのもいい。
それとも、あるいは‥‥。
「ああ、ちょうどハゥルはギルドの用事でちょっと忙しいのよね。良かったら、このまま行こう？」
ルゥさんも、私の考えを察したのだろうか。
私に覚えのある範囲では、ルゥさんとハゥルさんはいつも一緒だったから、居てくれるのが当たり前になっていた部分もあるのかも知れない。
その言葉に、向かう先三人で大丈夫だろうかとも思いつつ‥‥。
でも、私が思うよりも急ぎの用で、そしてよく知れた間柄の方が都合いい事が有るのかも知れない。
「‥‥わかりました。行きましょうか」
「はい」
アツシさんと一度顔を見合わせ、頷き合う。
「ありがと。‥セッちゃん、アツシさん」
ルゥさんの言葉を合図に、私達は領都の玄関先、大きな門の外へと向かった。

物騒な話の真相を追う私達とは裏腹に、外の風は心地よく、空は晴れている。
どんな穏やかな気候の下でも、平和な日常の中にも、大小関わらず事象は起こる。
覚者となってから、それまでのただ穏やかなだけの生活とはがらりと変わった。
けれど、決して辛い事ばかりではない。
こうして、信頼のおける、そして素敵な仲間とも出会えたーー。
逞しい背中の、一歩後ろ。
私の方からアツシさんの腕をそっと掴むと、気付いた彼が振り返りながらふわりと笑う。
そのまま、手を繋ごうとして‥‥でも、同じく此方を振り返ったルゥさんの視線に。
思わず手を離しかけると、そこへ。
「‥‥え？‥あっ」
とん、と不意に肩を押されてアツシさんの方へとよろめいた私を、彼の腕が抱き留めるように支えた。
それを見届けたルゥさんが、ふふっと悪戯っぽく微笑った。
「‥‥あの時もさあ」
「‥‥？」
特にアツシさんの方に視線を注ぎながらのルゥさんの言葉に、彼の肩が僅かにびくりと動く。
「‥‥ル‥」
「ううん、何でもない♪」
途中で言葉を止めたルゥさんに、アツシさんは却って肩を大きく動かしもう一度びくりとする。
そういえば、あの時もこういう遣り取りがあった。
私達が初めて出会った、あの時。
それも思い出しながら、思わずクスリと笑ってしまい。
アツシさんにばつの悪い表情を向けられながら、それでも笑顔を返してみた。
すると彼は困ったように微かに笑って、少し前を歩き始めた。
ーー照れ隠し‥‥というと、言い過ぎだろうか。
「あのねえ、アツシさんたら‥何も訊いてないのに私にねえ。セ‥‥」
すっと音も無く隣に寄って来て、耳打ちするように、でも落としきれていない声でルゥさんが言いかけた時。
「——ルゥさん？！」
「あ～、はいはい」
足を止め、じろりと視線を送るアツシさんに、ルゥさんがおどけるように両手を挙げて見せた。
「ごめんねセッちゃん、またこっそり教えてあげるね」
「しなくていいです」
低い声で直ぐに制止を入れる彼に、今度はぺろりと一瞬舌を出しあははと軽く笑う。
「はいはい、ごめんごめん☆」
ついその場で笑いだしてしまう私に、彼は更に困ったように小さく溜息一つ。
そんな私達を置いて、ルゥさんは軽快な足取りで先へと進み始める。
「まあ、私が何か言わなくてもさあ。充分毎日甘い言葉を‥」
「ルゥさん！」
今度は、私もびくりとする番だった。
アツシさんの制止に、それがかえって恥ずかしさを感じてしまう。
「はーい、もうしません☆——さ、遅くならないうちに行きましょ」

相変わらずなルゥさんのペースに、知らずのうちに私も乗せられてしまっていた。
此の先に待つ、全く得体も知れない、不確定な要素‥‥そんな不安も飛んでしまいそうだった。
「こっちこっち。カサディスにもだいぶ近いとこなの。ちょっと時間かかるよ」
ルゥさんが指さした先は、またも険しい峠を越える道。
今からだと、確かに到着する頃にはそこそこ遅い時間になるのかもしれない。
何とか暗くなる前に、峠は抜けてしまいたい。
「少し急ぎましょうか」
アツシさんも、いつも通りの落ち着いた声でそう促した。
私達も共に頷き合い、峠越えの山道へと急いだ。

カサディスから近い場所にあるという、”魔女の森”。
そんなところがあるなんて、文献では読んだかもしれないけれど‥‥。
村でただ魔法をかじってみていた頃には、実際に行ってみる事など考えもしなかった。
見も知らぬそこには一体、何が待っているのだろう。
今、何が起こっているのだろう。
そして、ルゥさんは、何を知っているのだろう‥‥。

考える事は、沢山あれど。
先ずは、この峠をスムーズに越えなければ。
今はただ、胸の奥でざわつく気持ちとは裏腹に‥‥爽やかな風と穏やかな陽を受けながら。
ただ、皆で先を急ぐ事しか出来なかった。 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-10-13T13:38:16+09:00</dc:date>
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		<title>１</title>

		<description>外に出る身支度を全て整えて、階下へと降…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 外に出る身支度を全て整えて、階下へと降りる。
もう昼時の宿の1階は、扉の開け閉めがあるたびに外の生活音が聞こえて来る。

手すりを伝いながら階段を降りる途中で、玄関先で待っていたアツシさんがこちらを振り返った。
一瞬、何か言いかけて、けれどそれを止めてふわりと微笑う。

昨日着せてもらった、豪奢な白いローブ程ではないけれど。
今日はまたゆっくり過ごせるのだからと、また島で着ていた水色のローブを選んで着た。
髪も昨日ルゥさん達にして貰ったように、横に流して‥‥少しは小奇麗にしてみたつもりだ。
「——良いですね」
彼の前に立つと、そう言ってくれた。
つい照れてしまい、返事に窮していると、彼はただにっこりと笑って。
「行きましょう」
彼は私の肩を抱くようにそっと手を回し、もう片方の手で扉に手を掛けた。
「はい」
小さく返事をしながら、彼の温もりにほんの少し力を抜いてもたれかかる。
ーーと。
「あら、いってらっしゃい♪」
背後からの軽やかな声に振り返ると、ちょうど奥から出て来たエムさんが手を振っていた。
その横で、黙って笑みを浮かべながら此方を見ているアッサラームさんも居る。
自分でもつい、堂々と彼に甘えてしまっているのが、急に恥ずかしくなる。
ともかく、背筋を伸ばし直して二人に会釈しながら、
「いってきます」
とだけ残して通りへ出た。

宿を出て直ぐ前に拡がる明るい広場の、静かに水を湛える噴水の横を、何気なく通り掛かろうとした時。
縁に立って話している人たちの声がーー少し、気になる話が耳に入って来た。

”森の魔女‥‥”、”竜を‥‥”、”‥魔女狩り‥”


内容は良く聞き取れなかったけれど、何やら不穏な空気を感じる。
それはアツシさんも同じようで、隣で眉根を寄せてその様子を見詰めている。
そんな彼の横顔を見上げていると、私の視線に彼が目を合わせながら口を開こうとした。
「——セツナ‥」
その時、ぽんぽん、と私の肩を叩く誰かの手に気付き、其方を振り向いた。
「？‥‥あっ」
「やっほ。どうしたの？今からお出かけ？」
二つに結い上げた髪を揺らすように、軽やかな微笑みと共に小首を傾げるルゥさんがそこに居た。
「はい、あの‥‥お昼を食べに」
「そっか、じゃあ一緒にいこ！」
答えるなり、ルゥさんは私達二人の肩にそれぞれ手を回して、背中を押した。
「は、はい‥」
既に足は、勢いで行先へと向かいながら。
突然の流れに、嬉しくも少し躊躇しながら、アツシさんの顔をもう一度見上げる。
彼も苦笑しながら頷いてくれたので、急遽昼食は三人で摂ることになった。


アースミスさんの店へと、雪崩れ込むように入っていくと、やはり今日も店は賑わっていて。
ネッティさんがくるくるとテーブルに食事を運んで回ったり、アースミスさんも注文を訊いたり忙しそうだ。
一番手前のテーブルの席が空いていたので、奥側にルゥさん、入り口側に私とアツシさんが並んで座る。
席に着いてすぐ、
「あら、いらっしゃい！」
と、いつも通り明るく迎えてくれたネッティさんに、素早く注文を通す。
とりあえず、チーズサンド、豆のスープ、ハーブ入りサラダ、唐揚げなど、朝食を抜いている分少し多めに人数分の食事を頼んだ。
それらをメモし終えると、ネッティさんは「お待ちを」、とまた急いで奥まで戻っていく。
彼女の、その様子をなんとなく見送っていると、ルゥさんが軽い口調で尋ねてかけてきた。
「ねえ、セッちゃん。次はまたどこか行くの？」
机に頬杖をつくように、手に顎を乗せてこちらを見ているルゥさん。
リラックスした姿勢ながら、それでもやはり彼女の目は真剣だ。
またどこかへ発つならと、内心で案じてくれているのだろう。
「ううん、まだ何も‥‥なんですが‥」
つい、店の外の、先程の話を耳にした噴水の方へと視線が動いてしまう。
「ん？——ああ‥」
ルゥさんも其方を見遣り、少し表情が鋭くなる。
「ルゥさんも‥‥聞いていたのですか」
私が訊ねるより先に、アツシさんが口を開いた。
彼の表情も、少し鋭く曇っている。
「何やら物騒な話ですね」
「‥‥うん」
アツシさんの率直な感想に、ルゥさんも短く答えながら頷く。

「はーい、お待たせー」
そこへ丁度ネッティさんが、幾らかの食事を運んできてくれた。
素早くテーブルに並べると、また奥へと引き返していった。
と、今度は、大きなお盆にアースミスさんが残りの全ての食事を乗せて運んできてくれた。
「やあ、いらっしゃい。今日は三人さん一緒かい」
ネッティさんと同様、忙しい中でもこの人も笑顔を絶やさない。
二人の対応に、私達も少し肩の力が抜け頬が緩む。
「うん、さっきそこで会ってねー。あ、あたし後でチョコプリン」
ルゥさんが、いつもの屈託ない口調に戻って挨拶がてら注文を伝える。
思わず、ルゥさんらしさに少し笑ってしまいそうになっていると、彼女は此方を振り向きながら言葉を続けた。
「セッちゃん達もいるでしょ？一緒に持って来てもらおうよ、あたし奢るから」
「え？あ、はい、あの‥」
つい返事に迷っていると、ルゥさんは表情を輝かせながらアースミスさんに向かって続けた。
「おやじさん、じゃあ三つね。‥‥って、この分はこないだのバイトの分のチャラでいい？」
「ああ、そうだったなあ。あんたは相変わらずうまいな」
ルゥさんの言葉に、アースミスさんはにやりと笑い返しながら頷いた。
何の事だろう？
話が全く分からないけれど、ルゥさんとアースミスさんは元々知り合いらしい。
確かに、この二人なら気が合うかも‥‥などと少し思いながら。
「じゃあ皆ごゆっくり。まあ、ゆっくりしていきなよ」
「おやじさん、ありがとー」
また接客へと戻っていくアースミスさんを見送り、そしてルゥさんは軽く手を振る。
「それで、あの‥‥」
食事が揃ったところで、先程の話を続けようとしたのだけれど。
ルゥさんが両手を此方に向けて振ってから、ナイフとフォークをその手に取った。
「まあ先ずは、いただきますしよう？食べながら話そうよ」
にっこりと笑う彼女につられて、やはり少し肩肘の力が抜ける。
彼女が此処に居てくれて良かったんじゃないかと、暖かい食事を口に運びながら頬が緩む。

皆の食事がある程度進んで、空腹がだいぶ満たされてきた頃。
「さっきの話なんだけどさあ」
ルゥさんが一番に先の話を、再び真剣な表情で口にする。
いつもと比べると、少し声は抑え気味だ。
ナイフとフォークを置き、水を一口含む。
「あたし、最近その森に行ったのよね。‥‥魔女、には会えなかったけど」
「‥‥え‥‥」
「でね、ちょっと心配なわけよ‥」
何かを思い浮かべるように、腕組みしながら考え込むルゥさん。
そこには、何があるんだろう？
私も食器を置き、手をぐっと膝で握った。
彼女が心配をするような何かがあるなら、それなら‥‥。
一度、アツシさんの方へと顔を向けて、目線で伺う。
彼は一瞬、考えるような表情を見せたけれど、それもすぐ消えて黙って頷いてくれた。
その了解を得て、改めてルゥさんを真っ直ぐ見ながら口を開いた。

「あの、私達と‥‥そこへ行きませんか？」
ルゥさんの、強い光を湛えた瞳が上がった。
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
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		<title>9</title>

		<description>長くも一瞬に感じる濃密な夜を彼と過ごし…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 長くも一瞬に感じる濃密な夜を彼と過ごして、そして朝になって‥‥。
目が覚めると、すぐ傍に居る時と、すっかり居ない時もある。
頭の下に腕を敷いていてくれる時は彼の温もりに、そうでない時は僅かにでも感じる温もりに包まれながら。
少し気怠さを感じながら、微睡む寝覚めの時間。

「——おはよう、セツナ」
今朝は傍に居てくれた。
此処は大きく人口も多い領都の街の宿、常に静かなカサディスの自宅とは違う。
外から聞こえて来る街の騒めきに、自然と目が覚める。
うっすらと目を開けると、こめかみの上辺りから囁くように降りて来る穏やかな声。
それと共に、髪をゆっくり優しく撫でてくれる大きな手。
釣られるように顔を動かせば、目を細め柔らかく微笑んでいる彼の笑顔。
「‥‥おはよう、‥‥アツシさん‥‥」
相変わらず照れ臭い気持ちが抜けない、けれどとても安心できる瞬間。
「‥‥すまない、つい‥‥。駄目ですね、私は」
「——ううん、私も‥‥‥」
つい言いかけて、気付いて呑み込んだ言葉。
言わずに留められて良かった‥‥と、思ったものの。
「————？」
「‥‥‥意地悪‥‥」
どうやら察してしまった彼に、とある問いかけを耳元で囁かれ、俯き縮こまりながら目を背けた。
そうして抵抗してみたところで、やはり頭の上でくすくすと笑われてじっと見詰められるだけ‥‥。
傍に居られて嬉しいものの、こういう時はついどこかへ逃げ出したくなる。
彼の方がやはり大人なのだと自分の中で納得させながら、けれどやはりどこかで少しでも抵抗したくなる。
「、アツシさんたら‥‥」
背中を向けて、ぼそりと口にしてみるも。
「——セツナ」
今度は、さっきまでとは違う低い声‥‥勿論、耳元で。
「可愛い」
「‥‥えっ‥？」
そしてそれが、ただ低いだけではなく。
更にふわりと肩口を抱くように回された腕にも、熱を帯びている事に気が付いてもーーもう遅い。

それからまた暫しの時間、体に籠った熱が引くまで‥‥彼の腕の中から解放されることは無かった。



「セツナ、すまない‥‥」
汗の滲む額の前髪を掻き分けられながら、彼がそこに軽く口付ける。
「私も、もう少し自重しなければ‥‥」
そっと上目で彼の表情を覗いてみると、少し困ったような色を浮かべているのが見て取れる。
「‥‥ううん‥‥」
私も、何処かでそれが嫌ではない気持ちを持っているのだろう。
実際、特に抵抗する気も起らないのだから。
彼が冒険に出ている時には全力で護ってくれているのは分かっているし、それに‥‥。
こうして想いに身を任せて幸せに浸っていても、私が覚者という立場である以上、いつどんな危機に遭うかも分からない。
――そう、遠い記憶の世界で見た、あのひと達のように‥‥。
そう考えると思わず、ぎゅっと彼の背に手を回して縋り付いてしまう。
「‥‥セツナ？」
一瞬驚いたような、けれどやはり落ち着いた声で、すぐさま彼が問いかけて来る。
「——ううん、‥‥ううん‥‥」
何でもない、と否定しかけて、やはり否定しきれない。
一人で自問自答して返答に窮してしまっていると、今度はただ優しくふわりと包んでくれる彼の腕。
「‥‥今日もう一日、ゆっくりさせて貰いましょうか」
「‥‥え？」
「本当は此処へ来たからには、直ぐに任務を負うなどの選択肢もあるのでしょうが‥‥。もう一日、休みましょう」
「——あ‥‥」
直ぐそこに在る彼の顔に視線を上げれば、正に”護り人”とも云える彼の至って真面目な表情にぶつかる。
どこか心配するような、そしてはっきりと強い意思を持った真っ直ぐな瞳。
また違う意味でどきりとする、それでいてやはり安心する強い眼差し。
「‥‥はい、ありがとう‥‥」
ついお辞儀をするように頭を下げると、またも、ふふという微かな笑い声。
優しく頭を撫でてくれる手に、ゆっくりと安心感を貰いながら。
「‥‥そういえば‥」
「はい？」
――つい、あのことを訊いてみたくなった。
「アツシさん、私が初めて此の街へ来た時‥‥」
「ええ」
「確か、裏通りの方の店を探している時に‥‥あの‥‥」
「何か？」
相変わらず、くすくすと笑い声を乗せているように柔らかく響く声。
もう、問いの内容が分かっているんじゃないかとも思ってしまいながら‥‥。
「——もしかしてちょっと、笑いませんでした？」
ずっと私の髪を撫でていた、彼の手がぴたりと止まった。
やっぱり、変な事を訊いたかな‥‥と思いながら、恐る恐る上目気味に視線を上げてみる。
面食らったような顔をしていた彼が、また吹き出すようにクスと笑った。
「‥‥ええ、あなたが‥‥可愛かったから」
「——！」
覗き込むように更に顔を近付け、彼が今度はにやりと笑う。
色んな意味でどきりとして、思わず返事を失ってしまった。
「よく分かりましたね、隠していたつもりだったのに」
更に目を細められ、真っ直ぐ見ていられなくなる。
これでは、自分でただ墓穴を掘っているだけのような気がしてきた。
「‥‥う、えっと‥‥‥。もう‥‥」
けれど今度は、さっきのような事は言うまい、と思い口を噤む。
「‥‥ふふ」
そうしていると、彼の方もただ黙ってふわりと抱きしめてくれた。
――もう、完全に彼には何でもお見通しだ‥‥。
そう思って小さく溜息を吐きかけた時、急激に空腹を感じて脱力した。
「——あの、お腹‥‥空きましたね」
「‥‥ああ‥、そうですね。もう昼近いかもしれない‥‥食事にでも行きますか？」
「そうですね‥‥」
気が付いてみれば、何だかんだで、もう半日ほどこうしている‥‥。
ちょっとゆっくりし過ぎているような、けれど短く感じられるような。
彼と居ると、ついその温かさに甘えていたくなるのも、きっと私の本心だろう。
もうすぐ多分‥‥、また慌ただしい生活が始まる。
またあの島へ行くことになるのか、それとも竜を追う任務を貰えるのか――それは分からないけれど。
そうなる前に少しの休息も必要なのだと、無理矢理自分の中で納得させる。

寝台から身を起こし出た彼が、此方に背を向けて服を身に着けている間。
「——そういえば、昨日の‥」
「はい‥‥？」
彼の言葉に耳を傾けながら、私もつい掛布を胸元に手繰り寄せつつ上半身をゆっくりと起こす。
「昨日来てくれていた、”リュウ”なんですが」
「ああ‥‥、はい」
綺麗な黒髪を持つ、体格のいい長身の‥‥彼の親友とも云えるポーンの男性。
初めて会って、少し言葉を交わした程度だけれど、よく覚えている。
「もうすぐ、家族が増えるんですよ」
「‥‥え‥‥？」
彼は窓の外へ、遠くを見るような視線を向けながら‥‥どこか温かい笑みを浮かべている。
リュウさんというひとには、家庭があるんだ‥‥それを彼も嬉しく思っているのだろう。
「そうなんですか‥‥」
私も彼の柔らかい表情を見ているうちに、頬が緩む。
と、彼がそのままの顔で此方を振り向いた。

「——こんな私でも、いつかは‥‥」
一瞬、心臓が今此処に在れば、泊まるんじゃないかと思うくらいどきりとした。
‥‥アツシさんと、私と‥‥‥の‥‥？
直ぐに言葉を出せない私に、彼の表情が少し悲しげにも感じる戸惑いを帯びた気がした。
「いえ、何でも‥‥」
「——ううん」
彼とずっと一緒に居る事、そして彼と一つずつ経ていく物事は‥‥私も決して嫌ではない。
私の本心からの気持ちを、ただただ表情に浮かべてみる。
本当にそうなる日が来るかどうか、それすらも分からないけれど‥‥。
それでも、今在る事は全て大事にしたい。
「——下の方々に、出掛けると言ってきますね」
彼が返事の代わりに、ふっと笑って部屋を出て行った。

私も寝台から起き出し服を着ながら、ちょっと思った。
――少しお風呂に、入らせて貰おう。
一人でそんなことを思っていると、何だかとても恥ずかしくなり‥‥。
昨日受け取ったまま使わず置いていた、ふかふかのタオルに火照る顔を埋めながら。

ーーやっぱり今、私は‥‥間違いなく幸せだ。 ]]>
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		<dc:date>2016-08-18T22:36:56+09:00</dc:date>
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		<title>8</title>

		<description>二人で過ごすには、決して広くはないひと…</description>
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			<![CDATA[ 二人で過ごすには、決して広くはないひとつの部屋のやや煤けた壁に。
窓からの街の明かりに、重なり合い揺らぐ影がぼんやりと映し出される。

どちらからともなく漏れる熱い吐息、そしてそれに乗り挙がる甘い声――。

いくら馴染んだ街だからと云って、以前はこうして部屋を共にすることの無かった二人だけに。
その時間を取り戻すように、そして今更ながらそれを惜しむように。

互いに身に着けているのは、たまに光を受けて微かに煌めく指輪だけ。
夜の闇に白く浮かび上がる、寝台に横たわる白くしなやかな躰。
それを抱き寄せ重なる、筋肉質の腕と逞しい躰、
――二人の唇が、指が、そして躰が重なり絡み合う度に。
内側に籠り堪らなくなった熱が吐息と囁きとなり、そしてか細い声となり吐き出され紡がれてゆく‥‥。

何度二人で共に熱を爆発させ、満ち足りた想いに浸ったのだろうか。
それは多分、とても長い時間。
けれど二人には、きっとあっという間。
遂には、二人の全てが一つになるのではないか、とすら思える程に重なり合い。
やがては互いに、心地よさすら感じる疲労に意識を堕としーー。
それでもしっかりと、汗に冷えゆく躰を温め合うように抱き合いながら眠り、朝を迎えるのだった。


ーー他には誰も居ない、二人だけの部屋。
惜しむように、取り戻すように‥‥そして、ただただ楽しむように流れる、愛おしい時間。

これからも先には、苦難が待っているのは分かっている。
それでも‥‥。

今この時だけはーーせめて快楽と幸せだけに満たされたい。
そんなささやかな願いを込めるように、二人の握り合う手の指輪の石は変わらず鮮やかな光を湛えていた。

まるで、その石自体に二人の‥‥いや、若しかするとまた別のーー意識が宿っているように。


ただありのままの、純粋な願いをーー。


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		<dc:date>2016-07-28T13:47:54+09:00</dc:date>
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		<title>7</title>

		<description>「やあ、お疲れさん」
宿の玄関口へ入る…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「やあ、お疲れさん」
宿の玄関口へ入ると、まずは主人のアッサラームさんがカウンター越しに出迎えてくれた。
手を挙げて笑みを浮かべているその姿は、以前此処を利用させて貰っていた時とやはり同じ。
どんなに疲れている時でも、いつでも自然体で話しかけてくれる主人には、アースミスさんと話す時と同じくほっとさせられる。
アースミスさんとはまた違ってはいるけれど、落ち着いた、それでいて気さくな雰囲気が滲み出ている。
「今日は‥‥ありがとうございました。あの‥」
「ーーお部屋空けてありますよ、セツナさん」
奥から聞こえて来た、軽やかな女性の声。
「久しぶり！お掃除も出来てますからどうぞ」
「‥‥エムさん。お久しぶりです」
にっこりと笑って主人の後ろに立つ、この宿の従業員のエムさん。
彼女にはこの宿に滞在している間、身の回りの事なども色々お世話になっていた。
初めて訪れた街で、一番身近にいてくれた女性かも知れない。
「ありがとうございます。‥えっと‥‥」
「前に使ってくれていた部屋よ。どうぞ？」
「——はい、でも‥‥」
その部屋は、確か‥‥。
「あ、それからタオル。お風呂も使って下さいね、疲れたでしょう」
「あ、はい‥‥、ありがとう‥」
ふんわりと乾かされたタオルを幾らかまとめて渡され、慌てて受け取る。
「もし何か、御用あったら呼んで下さいね」
こちらが何を言う間もなく。
ぺこりと頭を軽く下げ、エムさんはまた奥へと戻っていってしまった。
エムさんに訊けないので、アッサラームさんに
「ところで、あの‥」
と、訊こうとしたのだけれど。
「今日はあんた達の貸し切りだ、ゆっくりするといいさ」
そう言って、宿帳を持って机へと向かって行ってしまった‥‥。

とりあえず、部屋へ向かってみよう。
今日は二人で来る事を分かっていてくれたのなら、あるいは‥‥。
そう思って階段を昇り、久しぶりに使わせて貰う２階の部屋の扉を開けた。
「‥‥‥」
外の景色を臨める窓がひとつ、そして寝台と机が据えられた、簡素な部屋。
ーーやっぱり、何も変わっていない。
「——セツナ？」
「‥‥！」
扉を開けただけで立ち止まったままの私を、アツシさんが後ろから覗き込んできた。
肩口で聞こえる声にどきりとして、タオルを取り落としそうになり‥‥。
ぎゅっと抱き込むように持ち直し、一足先に小走りに部屋へと駆け込んだ。
その後ろで、扉を閉めた彼が部屋の窓際へと進み‥‥外を眺める。
「‥‥此処まで一緒に来たのは、初めてですね」
彼の目線の先は、きっと広場の噴水を臨む宿の玄関先‥‥いつも朝には迎えに来てくれていた場所。
「そう、ですね‥‥」
寝台の横の小さな机にタオルを置き、彼の隣に並んでみる。
まだその場所に目を向けている彼は、そこにーーかつての自分たちの映像を浮かべているのだろうか。
その横顔は、どこか少し寂しそうに微笑んでいるようにも見えた。
「‥‥本当は、もっと‥‥ゆっくり話もしたかった」
「‥え？」
「あなたと、わざと別れて休んでいたのが‥‥今思うと」
こちらを向き、苦笑してみせた彼の顔に‥‥またどきりとして。
思わず俯き、背を向けて。
少し離れた奥にある寝台に腰掛け、なるべくにっこりと笑って見せた。
「ーーじゃあ、今からでも」
一瞬、驚いたような顔をしていた彼だけれども。
「‥‥はい」
短い返事と共に、微笑み返してくれた。
今まで、擦れ違ったり‥‥遠慮して作れなかった時間。
それを、今からでも沢山、作っていけたら。
私達はもう、余程の事が無い限りーー離れることは無いのだから。

そして、彼が隣に腰掛ける、ぎしりと寝台が軋む音に、また少しびくりと肩が動いてしまう。
そう、この部屋には‥‥机も寝台も‥‥一つしかない。
だから、他の部屋が空いているなら、変えてもらおうかと…。
アッサラームさんやエムさんに確認しようとしたのだけれど。
ーーと、まるで責任転嫁のような思いを巡らせていると、その肩がふわりと暖かさに包まれた。
カサディスの自宅でもそれは同じだし、今更緊張する必要もないとは思うけれど。
それとはまたどこか、気持ちが違う。

それから近付いてきた彼の顔に、でもそちらを振り向かずにいると‥‥。
「‥‥セツナ」
髪を片側で分けているせいで、剥き出しの耳に彼の唇が直に触れそうになる。
「は、はい‥‥」
みるみる顔が熱くなり、小さく消えそうな声で返事をしてみたものの。
クスッと笑われて、そこからはもう何も言えそうにない。
折角だから、今日の事とか‥‥あと、此処に居た当時の事とか‥‥。
「——綺麗だ」
「‥‥？！」
思わず涙まで出て来そうな程、頬が上気してしまう。
「さっきは、皆の前では言えなかった‥‥駄目だな、私は」
苦笑するように小さく息を吐きながら、今度はその腕の中へと優しく抱き寄せられた。
「‥‥いえ、あの‥‥」
縮こまるように抱き締められながら、変に乾いてしまった喉で掠れてしまう声で言葉を紡ぎ出す。
「‥‥ありがとう‥‥」
そのまま何も言わない彼に、そっと目を向けてみると‥‥。
優しい笑みを浮かべながらも、熱の籠った眼差しを向けた顔がそこにあって、息を呑む。
「‥‥‥」
何も言えず、目も離せない。
そのまま、放心したように固まってしまっている私の顔に、彼の顔が近付いて‥‥。
ゆっくりと優しく、唇が重ねられた。
それは目を閉じる間もなく、軽く触れただけで離れて。
「‥‥すみません、先ずはゆっくり話をしようと思ったのに」
少し悪戯っぽく苦笑しながら、彼の手が私の頬に触れた。

彼の唇から、言葉はそれ以上続けられることなく。
もう一度、今度はもっと長く――深く重ねられていった。

そして背中に、優しく強く回されてゆく彼の腕の中の熱でーー私の固く緊張していた思考もゆっくりと溶かされていった。
目を閉じ、そっと彼の胸元に縋り付くように手を伸ばす。
その手を優しく握られ、かちりと互いの指にはめられた金属がーー指輪の音が微かに鳴った。
今日と同じ、ルゥさんやハゥルさんに見守られながら互いの指に通した指輪。
あの時と、ううん、きっとそれ以前からー―想いは変わっていない。
それを表すように、私達はいつしかしっかりと抱き合って口づけを交わしていた。

又訪れた領都で新たに迎える、彼との時間はーーまだきっと始まったばかりだ。

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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-07-21T13:18:20+09:00</dc:date>
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		<title>6</title>

		<description>酒場での特別な時間は、暗くなるまで暫く…</description>
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			<![CDATA[ 酒場での特別な時間は、暗くなるまで暫く続いた。

机の上にどんどん運ばれてくる料理を囲みながら、舌鼓を打ったり、皆で談笑したり。
私達は二人で一緒に囲まれもしたけれど、時にはそれぞれが別の方から話しかけられもしながら‥‥。
イージスさんやルインさん、ルゥさんにハゥルさん。
旅を共にした皆は勿論、街の人達とも一言二言ずつ言葉を交わした。
この街の台所のような存在でもあるこの酒場は、普段からいつも沢山の人で賑わっているだけに、何度も客の出入りがあった。
その度に、一言声を掛けてくれる人もいて‥‥ちょっと照れ臭かったけれど。

その中、人の波が一度切れたところで。
そっと近づいてきた人影が、少しずつ視界にに入って来た。
その人は、私とアツシさんの間の少し後方に静かに立ち止まる。
ゆっくりと其方を振り向いてみると‥‥。
会ったのは今日初めてだけれど、その姿はよく覚えている。
黒い鎧を着た、黒い髪の背の高い男性。
「‥‥アツシさん。お久しぶりです」
大柄な体格からは意外とも思える、静かな語り口。
どちらかというと、アツシさんよりも声音はやや細めかも知れない。
精悍な顔つきとは逆に、性格的には大人しめな方なのかも‥‥と勝手に想像してしまう。
「ああ、久しぶりだな‥‥ありがとう」
「——あっ、すみません。‥おめでとうございます」
「‥‥ふふ、気にしなくていいよ」
ーーまるでどこか、兄弟かなにかのような会話‥‥。
私にとって初めて見る相手との、アツシさんの初めて見聞きする話し方。
ついぼかんと、傍観者としてその光景を見てしまっていた。
「‥‥あっ、こちらがセツナ様ですね‥‥！初めまして」
きちんと腰を折り気味にお辞儀してくれるその物腰は、本当に体格からは想像できなくて。
「‥‥え？あっ、あの‥‥こちらこそ‥‥」
少し驚きつつ、慌てて挨拶を返す。
そして、言葉を続ける間もなく。
「あの、俺は‥‥その、アツシさんにはよくお世話になっています。リュウと云います」
もう一度、お辞儀と共にどこか慌てたような自己紹介を受けた。
その屈んだ肩を、アツシさんがぽんと軽く叩く。
「——そんなに畏まらなくても。俺の方こそ、よく世話になっているんだし」
「は、はい‥‥すみません」
「だから‥‥」
はは、とアツシさんが笑う。
彼にも、こういうお友達が居るんだ‥‥と、きっと当たり前の事なんだろうけれど、珍しい遣り取りだと思えてしまう。
「お二人は‥‥仲が良いんですね」
見ていて自然と、そう思えた言葉が口から出て行く。
アツシさんはそれに応じて、にっと微笑みながら頷いてくれた。
「——ええ。彼とは‥‥親友とも云いましょうか」
アツシさんが、今度はつリュウさんの背中に軽く叩くように手を遣った。
「‥‥はい、そうですね‥‥」
それを受けて、弾かれるように背筋を伸ばしたリュウさんがはにかみながら返す。
‥‥親友‥‥。
そういうのって、何だかいいなと思う。
私にも、一人ーーそういう人が居るけれど。
‥‥”彼女”は今、どうしてるんだろう‥‥？
ふと、カサディスで姉妹のように一緒に育った――キナの事を思い出す。

アツシさんとリュウさんが、少し何か話しているのを、まるで遠くの音のように聴きながら。
いつの間にか、思い出の中に入り込もうとしていたのだろうか‥‥。

「——今日はそろそろ、お開きにする？‥‥セッちゃん、大丈夫？」
呆けてしまっていたのだろう、後ろの方からまた違う声が掛かった。
びくっと肩を反応させてしまいながら、そちらを振り向いた。
果実酒など呑んで、少しほろ酔い気味なのだろうか。
僅かに頬を染めて、けれどはっきりとした口調で話しかけてくれるいつものルゥさんがそこに居た。
ひょっとしたら、疲れて見えていたのかも知れない。
または、以前此処で在ったお酒での失敗談‥‥。
そんなことを短い間に色々考えながら、慌てて返事した。
「あ、いえ、大丈夫です‥‥」

けれどやはり、今日はこのあたりで宴を終わらせようという事になった。
リュウさんも、自分もそろそろ帰らなければ、という事で。
そして、他の皆も普段から色々と忙しい身でもある。
皆が開いてくれたこの催しも、気付けばもう随分と時間が経っていた。
楽しみが疲れに変わってしまわない内に、或る程度きり良く終わらせた方が良いとも思う。
こうして皆と会えただけでも、とても嬉しかったのに‥‥此処までして貰えて、私には勿体なかったくらいだ。

ーーそれから、その場を片付けようとしている皆に混じって、私も手伝おうとしたのだけれど。
「あ～、いいのいいの。セッちゃん達はもう宿で休んで」
「そうそう。今日はもう疲れたでしょう」
「——ああ、また元気に顔を見せて貰わないとな」
ルゥさんと、ネッティさん、そして店長のアースミスさんにやんわりと止められてしまった。
「あの、でも‥‥」
それでも、と言おうとした矢先、今度は後ろからふわりと肩に手が乗せられた。
「そうですわ。今日はお会いできただけでも」
「‥‥全くだ」
肩に乗った白く細い手は、ルインさん。
その後ろで、イージスさんも腕組みして頷いている。
「‥‥わかりました‥‥すみません、ありがとう」
ぺこりと頭を下げると、今度はふふ、と静かな笑い声が。
「また何かお手伝い出来る事があれば、いつでも仰ってください」
静かな、恭しい口調ながら。
どこか自信に満ちたようなーールゥさんにも雰囲気の似た笑みを浮かべるのは、ハゥルさん。
ーーやっぱり皆、とても優しい。
温かい気持ちに包まれながら、はい、と皆の顔を見渡しながら頷いた。
‥‥と、もう一声。
「‥‥あの、もし俺にも‥‥機会が有れば是非‥‥」
やはりどこか遠慮したような口調は、リュウさんだ。
「はい、ありがとうございます‥‥」
「ありがとう、リュウ」
アツシさんと同時に答えながら、思わず顔を見合わせて笑った。
「－－そうよねえ、リュウさんも頼もしいよね♪‥‥だってもうすぐ‥‥」
「‥‥あ、わ、ちょっと‥ルゥさん！」
「はいはい、ごめんなさ～い」
‥‥どこかで聞いたような会話だな、と、思わずくすと笑ってしまう。
皆、やっぱり変わらない。

ややあって、いよいよ酒場での皆との時間は終わりを告げた。
アースミスさんと一緒に見送ってくれていた皆に別れの挨拶をして、私達は広場を挟んだ宿へと向かった。

別れと言っても、きっとまた皆に会える‥‥確証はないけれどそう思う。
今日此処で作ってもらった、暖かな思い出をーー。
まだ今しがたの事のように、そして今この夜道を照らす柔らかな灯りのように思い浮かべながら。

やはりあの酒場はーーそして皆の想いは、とても暖かい。
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-07-18T20:33:42+09:00</dc:date>
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		<title>☆5</title>

		<description>足の爪先まである丈の長いローブに、慣れ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 足の爪先まである丈の長いローブに、慣れなさに少し戸惑いながら。
こちらもたっぷりと幅のある袖と、裾をひらひらとつまんで揺らしてみる。
とてもふんわりとした軽い着心地の、まるで‥‥。
「‥‥あの、これって‥‥」
「——よくお似合いですわ、セツナ様」
質問を途中で打ち消すように、ルインさんが褒め言葉と共ににっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます‥‥あの‥‥」
「さあ、次は髪ですわね。‥‥ルゥさん、お願いしますわ」
「オッケ～♪——こんな感じ？」
「ふふ、良いですわね」
ーーやはり、質問は受け付けて貰えない。
優しくもしっかりと肩を掴まれ、椅子に座らされ‥‥手際よく今度は髪を整えられる。
微かに花の香りの立つ整髪料を手に塗り、ルゥさんが私の髪を片側でふわっと巻いてゆく。
髪を弄られるくすぐったさと、優しくふわりと香る匂いに、つい頬が緩む。
「——いい感じですわ。さあ、仕上げにこれを」
側のテーブルから、ルインさんが両手で掲げるように何かを軽く持ち上げた。
大事に抱えるように見せられたそれは、光を受けてきらりと眩い金色に輝いた。
そして、変わらず柔らかい微笑みを湛えた彼女によって額に据えられたそれは‥‥。
「ローレルサークレットですわ。皆からのプレゼントです」
「‥‥え‥‥」
とても軽い着け心地ながら、少しだけれどじわりと力が湧いてくるような温かさを感じる。
「——こんな良いもの、貰っていいんですか‥‥？」
「うん、いいのいいの！‥‥ていうか、完璧！いいじゃない～」
「‥‥ですわね。準備完了ですわ」
結局、何の為なのかも判らないまま、準備は整えられたようだ。
「それは私達からのお祝いです。どうか受け取ってくださいな」
「ありがとう‥‥、お祝い？」
――お礼を述べながらも、首を傾げてしまう。
それに対しても、ルインさんとルゥさんはまたもにっこりと笑っただけだった。
此処へ来て、あれよあれよという間に色々支度をされ、何も分からないまま‥‥。
「さあ、行こう♪みんな待ってるよ」
「——え？は、はい‥‥」
ルゥさんに肩を掴まれ、抱え上げられるように椅子から立ち上がる。
するとルインさんが、先に進み出て部屋の扉を開けてくれた。
「さあ、降りて下さい」
片手で扉を持ったまま、もう片手で行く先を掌で示す。
ルゥさんが手を引いてくれないと、足に纏わるような裾を踏んでしまいそうで。
恐る恐る歩きながら、扉を抜けた先の階段をゆっくりと目指す。

「——気を付けて。此方です」
そう云えばいつの間に、部屋を出ていたのか‥‥。
イージスさんが階下から、此方を見上げながら声を掛けて来た。
「セッちゃん、大丈夫？」
「‥‥は、はい‥‥」
そろそろと、一段ずつ踏み締めながら階段を下りてゆくと‥‥。

「——わあ、いいじゃない！」
ネッティさんがイージスさんの少し後ろ、厨房の中から表情を輝かせながら此方を見ていた。
‥‥と、食堂の方を振り替えって一言。
「皆さん、主役の登場ですよ」
ーー主役？
疑問を浮かべている暇もない勢いで、沢山の人達の歓声のようなものが聞こえて来た。
さっきまで、店には誰もいなかったのに‥‥？
何一つさっぱり分からないまま、厨房の脇の通路を抜けて食堂の方へ出ると。
やはり沢山の人々の姿が目に飛び込んで来た。
先ずは見慣れた人々ーー店長のアースミスさん、宿屋の主人アッサラームさん、ポーンギルドのバーナビーさん、そして‥‥。
此方もポーンの方だろうか、黒い鎧を身に着けた背の高い男性も居た。
それから、何人もの街の人々‥‥。
皆、笑顔を湛えながら拍手で迎えてくれている。
ーーこれは‥‥？
「——どうぞこちらへ」
思わず一帯を見渡しながら立ち止まっていると、店の奥の方から声が掛かった。
聞き覚えのある、落ち着いた声。
ふわりと靡く金色の髪、優しくも強い光を浮かべた青い瞳ーー何処と無く感じる面影は、ルゥさんと同じ…弟さんのハゥルさんだ。
壁を背にしてハゥルさんが立っていて、その前にアツシさんが居た。
彼も、剣やマントは身に着けておらず、いつの間にか上下揃いの服に着替えている。
「‥‥セッちゃん、みんなにお辞儀してから」
まだ呆けたままの私に、ルゥさんがこっそりと囁くように声を掛けた。
「あ、は‥はい‥‥」
ルゥさんの言う通りに倣って、そしてまた手を引かれてゆっくりと進む。

ハゥルさんとアツシさんに近付くにつれ、驚いたような顔をしていたアツシさんの表情が綻ぶ。
その柔らかい表情に何だか照れてしまい、つい俯きながら隣に並んだ。
そのタイミングで、ルゥさんの手が離れた。
肩をぽんと軽く叩かれ、おめでとう、と囁かれてふと顔を上げれば。
いつもとは少し違う、しっとりと落ち着いた表情で微笑み覗き込む彼女の温かい表情がそこにあった。
じわりと、色んなものの混じった暖かい感情が胸に込み上げて‥‥思わず瞼が潤む。
言葉は出せないまま、皆の集まっている方へと戻っていくルゥさんの背中をただ見送った。

ーー私の中で、皆が見守ってくれているこの状況が何なのかが判り始めた時。

「——それでは」
片手を顔の高さへと挙げたハゥルさんの、はっきりと短い、それでいて落ち着いたままの声が店内に伝わった。
皆の拍手も止み、いつもの場からするとまるで嘘のような静けさの中‥‥。
「お二人はどうぞ此方を」
じっとこちらを見守る視線だけを受けながら、アツシさんと共にハゥルさんの方へと向き直った。
するとハゥルさんが、私達の目を順に見ながら、柔らかく微笑み一礼した。
「これよりーー私が一同を代表して、両名の誓いの儀を執り行わせて頂きます。どうぞ宜しくお願いします」
分かっていたようで‥‥やはり驚いてしまう。
「え」、と思わず小さく声に出してしまいながらーー同じく驚いた様子のアツシさんと顔を見合わせる。
みるみる顔が赤くなるのをどうすることも出来ず、目を逸らし顔を覆いながら俯いてしまう。
その間にも、ハゥルさんはただふふっと笑い、口上を述べ始めた。
「——では、アツシさん。貴方は‥‥どのような平和な日常に於いても、どのような冒険の危機に陥った時も、この方を愛し支え護り抜くと誓いますか」
聴いていて、ますます頬が熱くなる。
「‥‥はい、誓います」
迷いない彼の答えに、もう全く二人の顔が見れない。
もはや、この場から下がらせて貰いたいとも‥‥。
「——では、セツナ様」
そう思ってしまう私の胸中も、ハゥルさんには分かっているのかも知れない。
間を空けず、はっきりと、けれど優しい口調を此方へ向けた。
「‥はい‥」
消え入りそうな声だったけれど、何とか返答する。
見上げてみれば、正面からハゥルさんが、隣からアツシさんが。
それぞれ、柔らかい表情で見守っていてくれているのが分かる。
落ち着いてーーそう言っているような、少し間を空けてくれたお陰で、軽く深呼吸する暇は出来た。
「良いですか？ーーそれでは。‥‥貴女は‥‥どのような平和な日常に於いても、どのような困難な冒険の中でも。彼を愛し、支え傍に居ると誓いますか」
その言葉に、一瞬、今までにあった様々な出来事が頭の中を通り過ぎて‥‥。
ただ幸せな時間だけじゃなく、すれ違いも、迷いもあった。
それらを、全て認めてきた上で‥‥。
「——はい、誓います‥」
ハゥルさん、そしてアツシさんの方を向いて、答えながら微笑んだ。

ーーハゥルさんがにっこりと微笑むのと、後ろから沢山の拍手を受けるのは同時だった。
少しびくっと驚いてしまいながら、改めて自分から皆の方を向いて頭を下げた。
皆口々に、おめでとう、とお祝いを述べてくれる中‥‥。

「では誓いの証をどうぞ」
ハゥルさんが、少し悪戯っぽく微笑んだのは‥‥気のせいだろうか？
一瞬、首を傾げた私の頬にアツシさんの手が掛かりーー。

何を思う間も無くーー軽く、彼の唇が重ねられた。
更に大きい歓声と、拍手に包まれながら‥‥一瞬、驚きと戸惑いによろけそうになった。
そしてふとまた目を向けてみると、ふふと笑う彼の大人びた優しい表情にまた照れてしまい‥‥。
逃げ道を探し、つい目を窓の外の方へ逸らしてしまうと。

ーーほんの一瞬だけど、見覚えのある服が見えた。
紅い、がっしりとしたあの姿は‥‥。
ひょっとして‥‥見に来て、くれたんだ‥‥。

ずっと拍手とお祝いの歓声を送ってくれている皆の方を向かいながら、心の中でそちらへそっと頭を下げた。

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		<title>4</title>

		<description>領都の大きな門を潜ると、懐かしくも感じ…</description>
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			<![CDATA[ 領都の大きな門を潜ると、懐かしくも感じる石畳が足元から伸びている。
カサディスは路地がそのまま土むき出しなので、此処の風景を見るとやはり文化の違いを感じる。
通路の伸びる先からは、街の喧騒も聞こえて来る。
人通りも多く、店もなかなか閉まらない一日中賑やかなこの街は、初めて訪れた時には戸惑いばかり感じたものだった。
街の中の探索をするにも、当時は何故か一人で頑張らなければと思っていた私は、頭を捻りながらやっとの思いで目的の場所にたどり着いたものだった。
――そういえば。
ちらと、隣を見上げてみる。
目が合った彼が、ん？と小首を傾げる。
「あの、アツシさん」
「はい」
直ぐに還って来る返事に、やはり少し迷って、
「いえ、なんでも」
と辞めてしまう。
‥‥と。
「何ですか？」
「‥‥！」
覗き込んでくる顔に、思わずどきりとする。
「‥‥いえ、あの‥‥。いいんです」
「‥‥」
振り切るように小走りに進む私の後ろで、彼がくすっと笑うのが聞こえる。
ーーそう、私が訊きたかったのは、これだ。
でも訊きかけてやっぱりいいかなと思ったのも事実で。
無理やりではあるけれど、しばらく無かったことにして貰おう‥‥と思ったのだ。
ちょっとした、つまらない事にしておいて貰おう。

そんな少し急ぎ気味の足取りで通りへと出れば、やはり予想した通りの人通りの多さに出逢う。
噴水の周りで話し込む人々、目的の場へ向かったり、荷物を運んだりと行き交う人々‥‥。
何もかもが久しぶりで懐かしい。
その中で、特に懐かしく親しみのあるものを見かけて、目が留まる。
そう、それは‥‥。
「——おう、セッちゃん！セッちゃんじゃねえかい？」
視線を少し上、建物の中ほどに掛けられた看板を見ていた私に、その下から声が掛かった。
反射的に目を向けると、笑顔で手を振る人が快活な笑い声を挙げていた。
「‥‥あ‥‥アースミスさん」
今日の目的の場でもある酒場の店長、アースミスさんだ。
思わず、じんと胸が熱くなる。
以前、此処を発つ前に良くして貰ったきりで、この人に会うのも本当に久しぶりだ。
自然と小走りに駆け寄ると、肩をポンポンと叩いて豪快に笑って迎えてくれた。
「いやあ、元気だったかい？‥‥ま、ちょっとはアツシ君から聞いてるけどね」
ずっと変わらない笑顔のまま、少し背中を押されて。
「さあ、入んなよ」
そう勧められながら、久しぶりに酒場の中へと入る。
ちょうどお昼前だけれど、人が誰も入っていない。
いつも此処は、食事を愉しむ人々で賑わっているのに‥‥。
そう思って足を止めてしまっていると、さらにぐいと背中を押された。
「此処じゃなくて、上へ上がってくれるかい？‥‥おーい、ネッティ」
調理場のある奥の方へ店長が声を掛けると、この店お馴染みの女性店員のネッティさんが小走りに出て来て、迎えてくれた。
「‥‥ああ、セッちゃん、久しぶり！」
笑顔でそう声を掛けてくれた彼女に、挨拶を返す暇も無く。
「早速で悪いんだけど、付いてきてくれる？アツシ君は待っててね」
「‥‥あ‥‥」
言われるまま手を引かれて、いつもは立ち入れない奥へと通された。
後ろで彼も、少し戸惑いながら、はいと小さく返事をしているのが聞こえる。
‥‥どこへ、何しに行くんだろう？
半ばぽかんとしながら、ネッティさんに続いて階段を昇る。
上がった先にあった扉を開けると、中は長椅子や机が置かれた居間のような部屋になっていて‥‥。
「——セッちゃん！」
入るなり、誰かが飛びついてきた。
勿論、姿を確認しなくても誰かは分かる。
明るい声、素早い身のこなし。
そして、私をそう呼んでくれるのは‥‥。
「ルゥさん‥‥！」
懐かしさと嬉しさに喜びが込み上げ、目頭まで熱くなってくる。
「ほんとにセッちゃんだ！‥‥良かった、会いたかった」
ルゥさんも今度は落ち着いた声で、しっかりとその腕で抱き締めてくれた。
「うん‥‥。ありがとう、ルゥさん」
私も腕を回し返して、少しの間再会の感慨に浸っていた。
ーーすると。
「良かったですわ、あの時は一時どうなる事かと」
「‥‥全くだ」
扉の開閉の音と共に、またも聞き覚えのある声が、背中の方から流れて来た。
ルゥさんから腕を離し、ゆっくりと振り返る。
二対のまっすぐな‥それでいて優し気な赤い瞳、そしてそれぞれ長さの違う銀色の髪。
まるで双子のようにも感じる、何も言わなくても息の合う二人。
「‥‥あ、ルインさん、イージスさん‥‥！」
「ふふ、お帰り♪」
二人は私とルゥさんに向かい合い立ち、それぞれに表情を緩めた。
「またお会いできて嬉しいですわ、セツナ様」
「‥‥全くです」
特徴ある二人の口調に頬が緩みながら、またもじわりと嬉しさが込み上げる。
此の二人にも、沢山助けて貰いながら冒険して‥‥最後は意識を無くしてしまいそれきりだった。
ルゥさんと同じく、どうしてももう一度会ってお礼を言いたいと思っていた――。
「‥‥さあ、セツナ様」
そのうちに私にぐっと近付いてきたルインさんが、いつかのように何かを両手で持って差し出してきた。
「‥‥これは‥‥？」
おずおずと受け取ってみると、それは何かさらりとした白い布地の‥‥。
「早速で申し訳ないですが、其方に着替えて頂けます？」
拡げてみると、何だか丈がとても長く、広く金糸の刺繍の入ったローブで。
「‥‥え、こんなの‥‥いいんですか？」
買ってきてくれたのか、作って来てくれたのか。
思わず遠慮したくなるほどの衣装で、訊き返してしまう。
「ええ、勿論ですわ。それを着て頂かないと始まりません」
「‥‥うむ。」
「ほらほら、早く♪他にもまだ準備あるしね～」
口々に言われながら促されて、皆の顔を見回しながらおずおずと頷いた。

一体、この後ーー何があるんだろう？ ]]>
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		<title>3</title>

		<description>宿営地での夜は、なかなか賑やかなものだ…</description>
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			<![CDATA[ 宿営地での夜は、なかなか賑やかなものだった。

野外で薪の火を囲んで食事を取りながら、バーン隊長や部下の兵士達と暫く談笑していた。
皆、私達の冒険の話を、興味深そうに、そして時折唸りや感嘆感お嘆の声を諸々に挙げながら聴いてくれた。
その中で受け答えのやり取りもしながら、遅くまで話は弾んだ。
食事の内容はおにぎりや肉を焼いたもの、そして付近で採れる果物など簡単なものだったけれど、皆で食べるそれらはとても美味しかった。
勿論お酒も沢山用意されて、アツシさんも騒ぎはしないものの、皆と楽しそうに酌み交わしていた。
彼は全く呑めない私とは違って、お酒にとても強い。
村の人達と沢山呑んで帰ってきても、顔色も態度も普段と全く変わらない。
それに引き換え、私は‥‥以前少し飲んだだけで眠ってしまうという迷惑をかけた事もあって、それ以来一切呑まないようにしている。

私は流石に、ある程度の時間には宿で休ませて貰ったのだけれど、アツシさんはその後も暫く起きていたようで。
いつの間にか隣で休んでいるような気配は、何と無く感じたものの‥‥。
予定の都合もあって起きる時間を早く設定していたので、多分あまり眠れていないんじゃないかと思う。
「ーーおはよう、セツナ」
それでもやはりいつもと調子の変わらない彼は、柔らかく挨拶してくれる。
「‥‥おはようございます」
此処で彼と初めて会った時、というか、彼と出会わせて貰った時。
リムに託した私の願いは、”強く安心出来る人”というものだった。
それは決して外れることなく、今現在もこうして彼と出会った此処で引き継がれている。
改めて考えると、少し照れ臭くも嬉しかった。

そんな私達が起き出したのは、朝の訓練を行う兵士達が集まり始める、まだどこにも陽が見えない頃。
まだ薄暗さの残る中、宿の番頭さんが出してくれたパンと果物ジュースを食べ、お礼と共に宿代を払って幕を後にした。
外へ出ると、兵士達は皆まだ軽装で、体操をしたり走ったりなどして、準備運動を始めているところだった。
「——やあ、おはよう！もう出発かい？」
「気を付けて行きなよ」
皆私達にすぐ気付いて、それぞれに手を振ったり声を掛けてくれる。
「おはようございます。‥‥はい、行ってきます」
私も軽く会釈を返しながら、挨拶を返した。
そのうち、隣で同じく会釈を返していたアツシさんの肩を、ばんと少し強めに叩いた人が居た。
「——おはよう、お二人さん。疲れは残っておらんかね」
まるで笑っているような軽い口調で、けれど気遣ってくれるその人は。
「おはようございます、バーンさん」
皆と同じく、まだ軽装のまま鎧を着込んでいない隊長がアツシさんの少し後ろに居た。
がっしりとした腕で、そのままアツシさんの肩を変わらずぽんぽんと叩きながら、
「そのうちまた一緒に呑もう」
そう言って二人で笑顔を交わしている。
彼らのそんな様子を見ながら、ほっこりと気持ちが緩みながらも、ちょっと羨ましくなる。
そのうち隊長の腕が、私達二人をがっちりと肩を組まれるように回された。
「二人とも、また会おう」
顔を見上げると、笑顔の残る中にも真剣な表情。
軽く励まされるような雰囲気で言われたその言葉に、私もアツシさんも短くしっかりと頷いた。


バーン隊長をはじめ、皆に暖かく見送られて。
いよいよ砦を後にした私達は、水平から顔を出し始めた朝陽を眩しく仰ぎながら、領都への道を歩き始めた。
以前は魔法も思うように使えず、此処を歩くだけでも恐々だったものだけれど。
今は二人でたまに立ち止まり、景色を眺めながらでもスムーズに歩いていける。
途中、オオカミの群れにも遭ったりするけれど、簡単な魔法で追い払ったりしながら、特に歩みを止める事も無い。
この分だと領都での約束も違えず、予定通りに到着出来そうだと少しほっとする。
アツシさんだけなら、こうして山道を歩かずとも目的地まで着けるのだけれど‥‥。
そんなことをふと思っていると、上り坂に差し掛かったところで彼の手が伸びて来た。
そのまま黙って手を繋いで引いて歩いてくれる彼には、私の思っている事がお見通しだったのだろうか？
「急がなくても‥‥時間には充分間に合いそうですね」
彼が言葉と共に向けてくれる微笑みに、はい、と小さく返事して頷いた。
朝陽の光が視界の横から射して来る、その眩しさの中で、彼の柔らかな表情が何と無く眩しく感じた。
きっと、私の頬は緩みっぱなしじゃないかと思う。
ーー改めてもう一度、彼がにっこりと笑いかけてくれたから。


やがて、緑の並木を抜けた先、橋の掛かる関所を越え。
高く聳える岩肌の切り立つ、見通しの悪い険しい峠道を歩きながら。
此処を以前は、同じく宿営地から出発した領都の一行と共に緊張しながら歩いていた事を思い出す。
あの時は指揮官のメルセデスさんや兵士の皆と、宿営地での戦果の献上物ーー斬り落とされたハイドラの首ーーを運んでいた都合もあったから、余計に緊張感に包まれていたのだけれど。
今はやはり、空を舞うハーピー達に、そしてたまに起こり得る落石の危機に‥‥二人では少し手間取る場面も有りながらも、順調に先へと進んでいける。
‥‥そういえば‥‥。
この峠は、他にもルゥさん達とも歩いた事が有るんだった。
先程通り過ぎた橋の向こう、遺跡の探索へ向かう時。
その際には”声”を失っていた私には魔法も全く唱えられず、何も出来ないもどかしさに歯噛みしたものだったけれど。

それから後に、やはりちゃんと挨拶も出来ないまま別れたルゥさん達に、もうすぐまた会えるんだ‥‥。
そして同じく、島で別れたきりのイージスさん達にも。
そう思う気持ちが、少し足を弾ませる。
「‥‥セツナ？」
私の僅かな歩調の変化に気付いたのか、アツシさんが短く訊ねてくる。
「ーーううん。あ、ほら‥‥見えてきましたよ」
峠の坂道をまずは上りきったところで、景色が拓ける崖際の足場。
そこへとつい小走りになりながら、今度はアツシさんの手を軽く引きながら向かう。
彼も、ふふと笑いながらそのまま付いて来てくれる。
眼下には、グラン・ソレンソの広大な平原と、その先に領都の大きな街が見える。
「——もうすぐですね」
「はい」
顔は向けないまま、改めて暫くゆっくりと二人でその広大な景色を見渡す。
そのうちぎゅっと、どちらからともなく繋いだ少し手に力を込めながら。
「行きましょうか」
「‥‥はい」
今度は顔を見合わせて返事しながら、また手を引かれながら歩みを再開した。

どこまでも拡がる広大な土地、その中心の大きな街。
その分、またきっと色んな事が待っている。
嬉しい事も、楽しい事も、苦しい事も‥‥きっと沢山。
この峠を抜けたら、また新しい日常が待っている。
少しずつ緊張も感じてゆきながらも、彼と繋いだ手の温もりに足取りを支えられ、都へと向かう。

これからはきっと、迷いや戸惑いに流される事もありませんように‥‥いや、きっとそんなことは無い。
ーー先ずは、心待ちにしていた皆との再会を楽しもう。
不安すらも心に射し込もうとする中、明るい気持ちになれるよう切り替えながら、しっかりと道を踏み締めて歩いた。
徐々に近づいてくる、久しぶりに見る領都の外壁に、そしてどこまでも拡がる緑の景色に様々な想いを馳せながら。
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