表記について

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9

時折角を曲がりながら通路を歩いた先、広間の敷居をくぐると…。
上座には此の城の主である巫女王が座しており、その左右には側近の部下である役人達が控えている。
ーーそこまでは、普段通りの光景。

いつもなら視線を落としながら、しとやかに歩を進める姫も……この日はどこか様子が違っていた。
「ーー母様。アヤにございます」
自然と身に付いているのであろう、流れるような所作で恭しく一礼する。

「ーー参ったか。…近う…」
御簾の垂れた玉座から、淑やかな声が返る。
巫女王に呼ばれ、一礼しそちらへ向かう姫の視線はーー。
少しずつ、ある方向へと逸れてゆく。
その視線の先に捉えるもの、それは…。
姫が先程、ずっとその目で…そして心の中でその姿を追っていた人物。
巫女王の斜め前方に、かしずき控えていた。

姫は頬が綻びそうになるのを抑えるように、僅かに一度視線を落とし…。
もう一度、そっと視線を上げる。

先日の事は、巫女王には知られていない事。
此処で姫が其の人物に会うのは初見である筈…。
その筈の、姫とシキ、そしてイオリーー三人が向かい合う。

「ーーアヤ。その者を…其方に逢わせておかねばなりませぬ故」
やはり予測したとおりの、そして彼の晩出会った三人にとって、安堵をもたらす言葉が巫女王より掛けられた。
「まずは其方の護り手として、其に居るイオリ殿に其の役を任じました。ーー良く留め置きなされ」

二人の視線が改めて重なる。
自然と浮かべた微笑の意味はーー端から見る者達には、きっと分からないだろう。
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