表記について

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1

ーーその夜、すっかり辺りも静まり返った刻限。
丁寧に植え込まれた木々が並ぶ城の中庭に、ひとり佇むイオリの姿があった。
ーー待ち人をしているのだろうか。
ぼんやりと空を眺めたり、木々を揺らす夜風にさらりと靡く髪を預けながらも……。
たまに視線を上げ、ある方向を目を凝らし見据えている。
そのうち、ずっと静まっていたその表情が僅かに緩んだ。

「ーーお待たせして…ごめんなさい」
暗がりの先から、涼やかな声を持つほっそりと映る人影が近付いて来る。
「ーーいえ。姫様」
そう、現れたのはーー彼が待っていたのは、姫だった。
「しかし何故、このような時間に…」
一息置いて疑問の表情を浮かべるイオリに、姫は少々…どこか悪戯っぽく笑う。
「このような時間でないと、駄目なのですわ…」
口元に指をあて、辺りの静けさに合わせたような小さな声でそう言いながら。
庭の更に奥へと、茂みを越え静かに足を進める。
「…姫様?」
意図が全く解らない様子で小首を傾げ、イオリも後に続く。

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ーー此の先に、何かあるのだろうか。
姫の足取りが、心なしか少しずつ軽快になる。

中庭の低木の茂みの隙間をするりと抜け、そして小走りに。
姫はある一点へと真っ直ぐに向かう。
後を追うイオリには、その道無き道は狭すぎて…。
姫とは違い、がさりと葉を揺らす音を立てながら摺り抜けた。
数枚の引きちぎれた葉がふわりと夜風に舞い、肩にはらりと落ちる。
「姫様、何処へ…」
その音と共に立ち止まった姫がゆっくり振り返り、微笑う。
「…ありましたわ」
姫の白く細い指が、袖から少し出ただけの控えめな仕草で指し示す先。
青々と枝葉を広げる、一本の木の根元に…。
「あれは…」
目にしたイオリが、呟きを漏らす。
夜更けの深い闇の中、まるでそこに星が舞い降り輝くように。
蒼い輝きを湛えながら、静かに咲く花が一輪。
微かな夜風に揺れて、それでもしっかりと根付き花開いている。
その蒼く儚い花弁に星々の光を受け、夜の闇の中でも存在を示そうと…一層輝きを増そうとしているように。

「ええ、月光花ですわ。近くで見ると…本当にとても綺麗」
姫はその目をうっとり細め、視線を花に向けたままーー静かに歩み寄る。
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