表記について

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11

草笛の音が、イオリが知るだけの何通りかの旋律を流し終えたとき。
風はまだ強く吹き付けるものの、雨音は少し勢い衰えてきたような静かな音に変わっていた。
イオリは葉を口から離し、窓の外を目を凝らし仰ぎ見る。
「ーー雨が……止んで来ましたね」
姫もつられてそちらを向く。

雨の叩きつける音が落弱まった分、ごう、とひと際強く吹いた風の音が響いた。
姫は一瞬、それに驚いたのか、それとも……。
もたれ掛かっていたイオリの腕の、袖をぎゅっと握り縋りつく。
そんな姫の様子に目を向け、ただ黙って見詰めーーその細い肩に腕を回したい衝動に駆られるも。
が、しかしそこに、先程の後悔の念がじわじわと押し寄せ、ぐっと抑える。
「姫様。風がもう少し緩んだらーー」

ーーけれど。
顔を上げた姫の、薄紅の唇を切な気に結び見上げる表情がーー寂しげな瞳を向ける視線が。
初めて出会った時から、思ってはいたのだが。
それが、どうしようもなくーー儚げで、そして堪らなくて。
全てを振り払い、気付けば思い切り抱きしめていた。

イオリは姫の髪に、姫はイオリの胸元に、それぞれ頰を埋め預けて目を閉じる。
しばらくそのままでいると、姫の手がおずおずと背中へ回されてくる。
その指は震え、そして息を呑む喉がイオリの顔の横でこくりと僅かに鳴った。

イオリがふと、その白く細い首筋に口付けたくなったのはーー。
この薄暗い室内の状況が、そしてその中で炎の光に照らされた艶めかしさが、そうさせたのだろうか……?
半ば衝動的に動いていた。


「ーーあ……」
背を反らす姫の口が僅かに開き、鼻に掛かるような甘い声が漏れた。

本当は、いけない事なのかも知れない。
そして、けれど実は許される事なのかも知れない。
真相は……。
ーーもう何も、わからない。
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