表記について

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5

イオリとの、結果的に濃密な逢瀬となった、あの夜以来。
それからというものーー。
また深窓での日々を送る中、姫の態度に明らかな変化が現れていた。
時折、窓の外をぼーっと眺めては、溜息を吐く。
……かと思えば、何かを空想してひとりはにかんでみたり。

「……様?ーー聞いておられますか、姫様?」
ーー例えそれが、"師"と向き合っての教養の最中でも。

静かに、けれどもはっきり質す様な口調。
その言葉の近さにびくりと肩を震わせ、顔を向ければ。
姫の向かう机に手を付きーーすぐ目の前で訝しげに覗き込む、シキの深い鶯色の瞳と視線がかち合う。
「……あ……、えと…。…何…?」
驚く程の近さに、姫は一瞬背筋を伸ばし僅かに仰け反る。
その返しに、シキはーー。
はあ、と短く、溜息をひとつ。
「……全く。此処のところ、少し浮ついておられませんか?そのような事では…、」
「ーーごめんなさい」
まるで反動で縮こまるように。
姫は肩を竦め、上目遣いにちらとシキの目を覗き込みーー謝罪の言葉をぽつりと口にした。
けれど、長年姫に仕え続けて来た、眼力鋭い傍人は。
姫の伏した瞳に、倦怠の色が混じっているのを見逃さない。
シキの言葉を遮るようなタイミングで、言葉を返したのもその証拠だ。

「ーー姫様。…心して聞いていて頂かなければ。あなた様の為の儀式でもあるのですよ」
真っ直ぐ視線を合わせたまま、片手に載せ開いてていた本をぱたんと音を立てて閉じる。
彼が手にしているのは、幾日か後に執り行われる祭事の資料。
その催しの一番の見所となるのはーー姫の祈りの儀式。
先日成人を迎えた姫が、新たに用意された祭器を授かり、国民の前で神に祈りを捧げる祈りの舞を奉納するのだ。
先程より、それについての説明をしていたものの……。
ーー肝心の姫は、上の空。
「これからは、今まで以上に祭事も増えるのです。その都度集中して頂かなければ困ります」
「……分かっていますわ…」
つい、素直でない態度を取ってしまうのは。
ーーシキとの長年の付き合いと、その中での慣習からの癖だろうか。
ぼそりと呟いた口を結び、つと目を逸らすその態度に。
遂に、シキの目が据わる。

手にしていた本を、姫の眼前に置いた。
そして目を合わせる事を辞め、背を向ける。
「……分かりました。では…」
「……え…?」
拍子抜けしたように、姫がその背を目で追う。
けれどどこか静かな意思を秘めた様な空気に、黙って次の句を待つ。
「後でもう一度、はじめからやり直しです」
「……ええ?そんな…」
「全てきちんと聞いて頂けるまで、です。ーー良いですね?」
「……はい……」
叱られた子供のように、しおらしく肩を竦める姫に。
振り返らず扉に向かったまま、取っ手に掛けていた手をとめて声を掛ける。
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