表記について
・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。
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沈みゆく夕陽が城の建物を山間から射すように照らし、茜色の幕に浮き上がる影絵のように見せ始める。
その中へゆっくりと踏み入るように、姫とイオリは揃い歩いて門を潜る。
整然と木立の並ぶ進路を、ただ黙して進みながら…その手はしっかりと繋がれている。
ただ、先程までのように寄り添っていては、無用に人目についてしまう。
イオリが先を歩き手を引くような形で、けれど握る力は強過ぎず優しい。
ついそうしてしまうのはーー。
成り行き上とはいえ、帰城が遅くなってしまった事からの後ろめたさからだろうか。
……それとも……。
此の城はどちらかというと、世の中の同じような建造物からすれば手狭なほうだ。
建屋の高さも低めになっている。
だからして、玄関口に佇む出迎えの人影も直ぐに目に入る。
ーーまさに姫とイオリが出会ったあの日が、そうであったように。
二人の行く手、大きくは幅広い階段を上がり切った先。
階下で一旦立ち止まり、見上げたその場には。
すくとこちらを見据え立つ、長身の青年の姿があった。
「…シキ…」
先ず呟いた姫の声に、僅かに緊張の色が滲んでいる。
姫と目が合いーー恭しく右手を胸に当てて軽く腰を折り一礼するシキの、ほっと安堵の息を吐くような表情が返される。
その後ゆっくり顔を上げた彼の、イオリを流し見下ろす視線は、対して鋭く冷ややかだった。
それに気付いたイオリが眉を顰めながらも、姫を先導して共に階段を昇る。
「ーーお帰りなさいませ」
段を昇り切った二人を、数歩先に佇み改めて出迎えたシキは……。
いつもと変わらない穏やかな声音で、もう一度目礼しながら姫に声を掛けた。
その彼の態度に、姫は意表を突かれたような伺いの目を肩を小さく竦めながら向ける。
「…あの、シキ…」
「部屋へ戻られますか」
通路の先へと手をやんわりと翳し示すシキに、姫は黙って上目遣いのまま頷く。
いつもの習慣からすれば、シキの口からは早速小言が出並ぶと思っていたのだろう。
けれど彼は、何も言及しない。
そしてそのまま二人に背を向けるとーー。
「イオリ殿。…ご苦労様でした」
首を僅かに動かし、けれどイオリとは目を合わせないまま。
静かに労いの言葉を掛けた。
「ーーいえ。私は当然の…」
「嵐に…遭いませんでしたか」
イオリの言葉を遮るように、シキの質問が被さる。
「……。ええ、暫く凌げる場に退避しておりました」
訊かれたイオリは一瞬言葉を失い、けれどすぐに落ち着いた答えを返す。
ーー決して、嘘は付いていない。
「……そうですか。機転を利かせて頂き…ありがとうございました」
振り返りざまのその言葉とは裏腹に、シキの視線が強みを帯びたように見えた。
けれどそれも、只一瞬。
「姫様の儀式はもうあと三日ほどですゆえーー大事なく済んだようで良かったです」
そして次の瞬間、ふっと笑みが漏れたような気がした。
その様子は、まるで何かをーー。
「ーーそれでは、私は失礼します」
イオリが一度姫の手をぎゅっと握ってから、その手を離した。
そして先程のシキと同じく恭しい一礼を残し、マントを靡かせ去ってゆく。
「…あ…」
つい名残惜しそうな呟きとともに背中へ手を伸ばす姫に、イオリは軽く振り返り微笑みを残す。
胸のあたりで手を組み、切な気に見送る姫の様子を、シキはぐっと言葉を呑み込むように見詰め。
「…姫様」
少し掠れた声で口にすると、そっと肩を包み促す。
「此処は冷えますから…」
「……ええ……」
玄関先で二手に分かれた通路を、イオリはひとり、そして姫はシキと二人、互いに背を向けて進み始める。
愛し合う二人は各々互いの後姿を、たまに振り返り焼き付けながら…。
そしてそれを傍で、けれどしかと目に入れるものは、密かに拳を握りながら…。
それぞれの想いを胸に、すっかり陽も落ち冷え込み始めた夜の風が吹き込む通路を行く。
やがて来る運命の日を、そうとは知らず過ぎゆく日々の向こうに迎えようとしながら。
その中へゆっくりと踏み入るように、姫とイオリは揃い歩いて門を潜る。
整然と木立の並ぶ進路を、ただ黙して進みながら…その手はしっかりと繋がれている。
ただ、先程までのように寄り添っていては、無用に人目についてしまう。
イオリが先を歩き手を引くような形で、けれど握る力は強過ぎず優しい。
ついそうしてしまうのはーー。
成り行き上とはいえ、帰城が遅くなってしまった事からの後ろめたさからだろうか。
……それとも……。
此の城はどちらかというと、世の中の同じような建造物からすれば手狭なほうだ。
建屋の高さも低めになっている。
だからして、玄関口に佇む出迎えの人影も直ぐに目に入る。
ーーまさに姫とイオリが出会ったあの日が、そうであったように。
二人の行く手、大きくは幅広い階段を上がり切った先。
階下で一旦立ち止まり、見上げたその場には。
すくとこちらを見据え立つ、長身の青年の姿があった。
「…シキ…」
先ず呟いた姫の声に、僅かに緊張の色が滲んでいる。
姫と目が合いーー恭しく右手を胸に当てて軽く腰を折り一礼するシキの、ほっと安堵の息を吐くような表情が返される。
その後ゆっくり顔を上げた彼の、イオリを流し見下ろす視線は、対して鋭く冷ややかだった。
それに気付いたイオリが眉を顰めながらも、姫を先導して共に階段を昇る。
「ーーお帰りなさいませ」
段を昇り切った二人を、数歩先に佇み改めて出迎えたシキは……。
いつもと変わらない穏やかな声音で、もう一度目礼しながら姫に声を掛けた。
その彼の態度に、姫は意表を突かれたような伺いの目を肩を小さく竦めながら向ける。
「…あの、シキ…」
「部屋へ戻られますか」
通路の先へと手をやんわりと翳し示すシキに、姫は黙って上目遣いのまま頷く。
いつもの習慣からすれば、シキの口からは早速小言が出並ぶと思っていたのだろう。
けれど彼は、何も言及しない。
そしてそのまま二人に背を向けるとーー。
「イオリ殿。…ご苦労様でした」
首を僅かに動かし、けれどイオリとは目を合わせないまま。
静かに労いの言葉を掛けた。
「ーーいえ。私は当然の…」
「嵐に…遭いませんでしたか」
イオリの言葉を遮るように、シキの質問が被さる。
「……。ええ、暫く凌げる場に退避しておりました」
訊かれたイオリは一瞬言葉を失い、けれどすぐに落ち着いた答えを返す。
ーー決して、嘘は付いていない。
「……そうですか。機転を利かせて頂き…ありがとうございました」
振り返りざまのその言葉とは裏腹に、シキの視線が強みを帯びたように見えた。
けれどそれも、只一瞬。
「姫様の儀式はもうあと三日ほどですゆえーー大事なく済んだようで良かったです」
そして次の瞬間、ふっと笑みが漏れたような気がした。
その様子は、まるで何かをーー。
「ーーそれでは、私は失礼します」
イオリが一度姫の手をぎゅっと握ってから、その手を離した。
そして先程のシキと同じく恭しい一礼を残し、マントを靡かせ去ってゆく。
「…あ…」
つい名残惜しそうな呟きとともに背中へ手を伸ばす姫に、イオリは軽く振り返り微笑みを残す。
胸のあたりで手を組み、切な気に見送る姫の様子を、シキはぐっと言葉を呑み込むように見詰め。
「…姫様」
少し掠れた声で口にすると、そっと肩を包み促す。
「此処は冷えますから…」
「……ええ……」
玄関先で二手に分かれた通路を、イオリはひとり、そして姫はシキと二人、互いに背を向けて進み始める。
愛し合う二人は各々互いの後姿を、たまに振り返り焼き付けながら…。
そしてそれを傍で、けれどしかと目に入れるものは、密かに拳を握りながら…。
それぞれの想いを胸に、すっかり陽も落ち冷え込み始めた夜の風が吹き込む通路を行く。
やがて来る運命の日を、そうとは知らず過ぎゆく日々の向こうに迎えようとしながら。
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