表記について
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・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。
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暫く目を伏せながら忍び嗤いを漏らしていたシキが、その手を口元から目元へと上げ…。
そしてゆっくり、感情の消えたような表情の顔を上げた。
「……シキ……?」
常に彼が見せている穏やかさの感じられない、雰囲気の違う様子に。
姫は少々訝し気に扉に後ろ手をつき、探るような瞳を向ける。
ーー目が合った瞬間、シキはすっと目を細め。
「……え……?ーーあっ!」
無言のまま足早に、姫との間合いを詰めたかと思うとーーその身を軽々と両手で抱き上げた。
「……や…!なに……?!」
腕の中の姫を表情を動かさず、ちらりと見遣るだけの目に、無言の迫力のようなものを感じながら。
普段物静かな、そして兵役に赴く事も力仕事を特にする事のない、そんな彼の予想以上の逞しさを思い知らされる行動に、訳が分からず戸惑いながら。
突然の行動に、言葉も出ず抗えないまま。
姫の身は部屋の隅の寝台へと仰向けにどさりと下ろされーー両肩のあたりに勢い良く手を付かれ、目の位置を合わせ覗き込まれる。
「………な…… ?」
その目の前の、シキの真っ直ぐな表情にーー姫は思わず目を見開き唾をごくりと呑んだ。
鼓動が昂まり、脈が波打ち…全身の体温がじわりと上がる。
切れ長の目の中の、いつも厳しくも優しい光を湛えた瞳。
そしてつい小言を言わせてしまう、やや薄めの形の良い唇。
整った顔立ちをしているシキではあるものの、普段は"側近"、そして教養の"師"。
そんな彼が、今見せている表情は……そのどちらでもないように感じた。
ただそれは、姫が知らないだけの表情ではあるのだけれどーー。
「……シキ…?!」
彼の胸を押そうとした姫の手首を、シキはさらに姿勢を低くして寝台に肘を付き両手で掴み止めた。
足をばたつかせようとするも、膝を折り抑え込まれる。
「………!」
緊張からからからに乾く喉と、恐れすら感じ震える唇では…。
姫の口から、彼の唐突な行動の意を問う事は不可能だった。
そして、彼の顔がゆっくりと近付くと、姫はぎゅっと目を瞑り思わず顔を背けた。
ーーと、その動きが一度止まった。
「ーー姫様…」
ちょうど耳元、唇が触れそうな距離で。
囁くような、けれど強く低い声に、姫はぞくりと背筋を走る感覚に肩を震わせ…目を見開いた。
シキの手が姫の手首から離され、そのまま頰に添えられると、ぐいと顔の向きを戻され。
額を合わせ、そして視線を真っ直ぐ合わせられる。
思いの外、強い力で抑えられーー顔が逃せない。
「……や……」
「私…は……」
憂いを含んだような鶯色の瞳が、今までに有り得なかった程近くで見詰めている。
今この状況、そして彼が今……何をしようとしているのか。
ーー訊かなくても、きっと分かっている。
……ただ……。
「………どうして……、こんな…こと……⁈」
たどたどしい言葉と共に、目に涙すら浮かべ……どうしても困惑の拭えない表情を見せる姫に。
ーーシキは後ずさるように顔を離し……軽く首を横に振り、ふっと微かに笑った。
先程とは違い、どちらかと言うといつものように穏やかに、そしてどこか切な気に。
「……お分かりに…なりますか……」
ぼそりと誰ともなく呟くように問いかけながら、シキは手を離しゆっくり身を起こして立ち上がる。
一拍遅れて姫も、動悸からの乱れた息を整えながら寝台の上で上半身を起こす。
シキがその側に、背を向けながらゆっくりと腰を下ろした。
「ーー何故、あなた様の側近が…私なのか。そして、"護り手"が…イオリ殿なのか……」
穏やかな口調と共に振り返るシキの表情は、それでいて真剣なものだった。
「……え……?」
何のことか分からない、とそのまま顔に書いたような姫の様子に、シキはもう一度ふっと笑う。
「先日、巫女様が仰いましたね。……ご自身でこれからの事を決めなさい、と」
「ーーええ…」
その言葉に、姫もその時の状況をゆっくりと思い出しながら頷く。
「…あなた様の傍に就くだけなら、私でなくても良い。あなた様をお護りするだけなら…イオリ殿でなくても良い。ーーそうは思いませんか?」
言いながら、シキが口だけで薄く笑う。
「あなた様も、そしてイオリ殿も存じないかも知れないですね。ーー私達二人が、傍にいるのは……」
そこで一度言葉を切り、シキがゆっくりと、真っ直ぐ姫に向き直った。
「ーーゆくゆくは、どちらかとあなた様を……と、巫女様はお望みなのです」
息を呑む姫の、形の良い大きな目がーーさらに見開かれた。
そしてゆっくり、感情の消えたような表情の顔を上げた。
「……シキ……?」
常に彼が見せている穏やかさの感じられない、雰囲気の違う様子に。
姫は少々訝し気に扉に後ろ手をつき、探るような瞳を向ける。
ーー目が合った瞬間、シキはすっと目を細め。
「……え……?ーーあっ!」
無言のまま足早に、姫との間合いを詰めたかと思うとーーその身を軽々と両手で抱き上げた。
「……や…!なに……?!」
腕の中の姫を表情を動かさず、ちらりと見遣るだけの目に、無言の迫力のようなものを感じながら。
普段物静かな、そして兵役に赴く事も力仕事を特にする事のない、そんな彼の予想以上の逞しさを思い知らされる行動に、訳が分からず戸惑いながら。
突然の行動に、言葉も出ず抗えないまま。
姫の身は部屋の隅の寝台へと仰向けにどさりと下ろされーー両肩のあたりに勢い良く手を付かれ、目の位置を合わせ覗き込まれる。
「………な…… ?」
その目の前の、シキの真っ直ぐな表情にーー姫は思わず目を見開き唾をごくりと呑んだ。
鼓動が昂まり、脈が波打ち…全身の体温がじわりと上がる。
切れ長の目の中の、いつも厳しくも優しい光を湛えた瞳。
そしてつい小言を言わせてしまう、やや薄めの形の良い唇。
整った顔立ちをしているシキではあるものの、普段は"側近"、そして教養の"師"。
そんな彼が、今見せている表情は……そのどちらでもないように感じた。
ただそれは、姫が知らないだけの表情ではあるのだけれどーー。
「……シキ…?!」
彼の胸を押そうとした姫の手首を、シキはさらに姿勢を低くして寝台に肘を付き両手で掴み止めた。
足をばたつかせようとするも、膝を折り抑え込まれる。
「………!」
緊張からからからに乾く喉と、恐れすら感じ震える唇では…。
姫の口から、彼の唐突な行動の意を問う事は不可能だった。
そして、彼の顔がゆっくりと近付くと、姫はぎゅっと目を瞑り思わず顔を背けた。
ーーと、その動きが一度止まった。
「ーー姫様…」
ちょうど耳元、唇が触れそうな距離で。
囁くような、けれど強く低い声に、姫はぞくりと背筋を走る感覚に肩を震わせ…目を見開いた。
シキの手が姫の手首から離され、そのまま頰に添えられると、ぐいと顔の向きを戻され。
額を合わせ、そして視線を真っ直ぐ合わせられる。
思いの外、強い力で抑えられーー顔が逃せない。
「……や……」
「私…は……」
憂いを含んだような鶯色の瞳が、今までに有り得なかった程近くで見詰めている。
今この状況、そして彼が今……何をしようとしているのか。
ーー訊かなくても、きっと分かっている。
……ただ……。
「………どうして……、こんな…こと……⁈」
たどたどしい言葉と共に、目に涙すら浮かべ……どうしても困惑の拭えない表情を見せる姫に。
ーーシキは後ずさるように顔を離し……軽く首を横に振り、ふっと微かに笑った。
先程とは違い、どちらかと言うといつものように穏やかに、そしてどこか切な気に。
「……お分かりに…なりますか……」
ぼそりと誰ともなく呟くように問いかけながら、シキは手を離しゆっくり身を起こして立ち上がる。
一拍遅れて姫も、動悸からの乱れた息を整えながら寝台の上で上半身を起こす。
シキがその側に、背を向けながらゆっくりと腰を下ろした。
「ーー何故、あなた様の側近が…私なのか。そして、"護り手"が…イオリ殿なのか……」
穏やかな口調と共に振り返るシキの表情は、それでいて真剣なものだった。
「……え……?」
何のことか分からない、とそのまま顔に書いたような姫の様子に、シキはもう一度ふっと笑う。
「先日、巫女様が仰いましたね。……ご自身でこれからの事を決めなさい、と」
「ーーええ…」
その言葉に、姫もその時の状況をゆっくりと思い出しながら頷く。
「…あなた様の傍に就くだけなら、私でなくても良い。あなた様をお護りするだけなら…イオリ殿でなくても良い。ーーそうは思いませんか?」
言いながら、シキが口だけで薄く笑う。
「あなた様も、そしてイオリ殿も存じないかも知れないですね。ーー私達二人が、傍にいるのは……」
そこで一度言葉を切り、シキがゆっくりと、真っ直ぐ姫に向き直った。
「ーーゆくゆくは、どちらかとあなた様を……と、巫女様はお望みなのです」
息を呑む姫の、形の良い大きな目がーーさらに見開かれた。
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