表記について

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8

姫は期待に目を輝かせ、思い切りよく唇に当て息を吹く。
けれど……。
幾ら試しても、イオリの奏でたような繊細な音は鳴らない。
空気の抜けるような、すうすうと詰まり空振る音が葉の端から漏れるのみ。
「ーーーー⁈」
段々と、姫の表情が曇ってゆく。
心持ち頰が染まり膨らんでいる様子に、ついイオリは、ふふと小さく笑い声を漏らす。
「ーーまあ、イオリ様ったら…」
上目遣いに軽く睨む姫に、それでも笑いを堪えながら。
「…すみません。姫様、それでは駄目です」
「じゃあ、どうすれば良いんですの?」
「ーーこうです」
姫の指で差し出された葉をもう一度手にし、また息を吹きかけて見せる。
ーーやはり、先程と同じ音が鳴った。
少しだけ鳴らして、イオリはまた葉を差し出す。
「わたくしも、同じようにしているつもりですのに…」
それを受け取りながら姫は指を頰に当て、小さく首を傾げた。
「ーーどうして、わたくしには出来ないんですの…?」
色んな表情に変わる姫の様子に、イオリはただ、ふっと微笑む。
風が花弁の周りをそよぎ包むように、イオリの掌が添えられーー。
唇が、軽く触れる。
「………イオリ…様?」
「ーーすみません。姫様が…」
目を見開き、言葉を失う姫に。
「あまりにも…、可愛くて」
そんな一言を、微笑みながら告げたものだから。
「イオリ様の…意地悪…」
頰をほんのり紅潮させ、上目遣いにいじらしい視線を向ける姫の瞳が、恥じらいに潤む。
その瞳に……更なる深い想いを塗り重ねるように。
イオリの真っ直ぐで深い眼差しを湛えた瞳が、ゆっくり近付きーー。
優しく唇を重ねた。

いつしか抱き合い、甘い口付けを交わし合う二人の側で。
時折吹く風ににそよぐ花が、寄り添い揺れていた。

ーーただ、春の気候と云うものは、時に変わりやすいもので。
二人の想いを余所に、辺りには湿った空気が少しずつ流れ始めていた。

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