表記について

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3

その後も進むにつれ、リザードマンが姿を現し‥‥。
そして剣士二人の刃に切り払われ、そこを魔法で援護してゆく。
いわゆる見慣れた大きさのもの、そして先程から初めて見る巨大なもの。
皆、上がる水飛沫を浴びながら戦い、どさりと倒れる魔物の横を通り過ぎ、辺りの暗さからも殺伐とした空気に身を包まれながら進路を開く。

そうして進むうちやがて、辺りが再び暗闇と水音だけにに包まれた。
四人其々の武具を納め、改めて周囲を軽く見渡してみる。
「こんな場所すら、複雑な造りになってますのね‥‥」
ルインさんがおっとりと、そして溜息混じりに呟く。
水路は曲がりくねったり角が分かれていたり、そしてその先は暗く見通せない。
その中を戦うがままに任せ、進んで来たものの。
何処へどう向かえばいいかは、全く分かっていない。
同じく首を傾げ、耳を澄ませてみても、やはり水音しか‥‥。
ーーと、思い掛けたその時。

「‥‥む?」
「これは‥‥」
イージスさんと、アツシさんが同時に身構え、口にした。
そしてゆっくりと、其方へと顔を、それから体を向けてゆく。
どことなく背筋が冷やりとするのは、体が濡れているからという理由だけのものではないだろう。
聞き覚えのある音に、ルインさん、そして私もつられて足が向かいそうになるけれど。
さっと進路を塞ぐように、体の前に腕が差し伸ばされた。
いつの間にか片手を背にした剣の柄に掛け、もう片方の手を伸ばしてきたのはーーアツシさん。
僅かに視線が合う程度に振り向き、また向き直る。
”下がって”
意図する事が分かって、ただ頷いて答えた。
きっと、以前にも‥‥同じことがあったから。
見えない先から、くぐもった音ーー唸り声を発している相手は、しっかりと記憶に焼き付いている。
それは今此処に居る一同、同じ筈。
「——こんな処にまで‥‥まあ、そういうものか」
「ええ、そのようですわ。‥慎重に」
「‥‥ああ。分かっている」
イージスさんとルイさんの短い遣り取りからも、確信が沸く。
「では、私が先に」
アツシさんの一言で、皆の考えが同じである事が証明された。
「お願いしますわ」
短く、はっきりと告げたルインさんの返答。
それを合図にするように、アツシさんを先頭に皆で歩調を合わせゆっくり進む。
先に見える角、そこを曲がればきっと‥‥。
段々と、がさがさと何かが動く物音と唸り声が近づいてくる。
長過ぎはしない通路の角をいよいよ曲がり、緊張と不安も覚えながら更に目を凝らしながら近付いてゆく‥。
「そこか‥」
「——やはりな」
アツシさんとイージスさんが、進みながらゆっくりと剣を抜いた。
確かに、見えた。
記憶と違わない、全身を剛毛に覆われた大きな魔物。
身の丈が倍以上はある、そして大きな顔に貪欲に血走った眼を光らせる獣人の魔物ーーオーガ。
未だ此方には気付かず、無心に水路に座り込み何かを貪っている。
ーー先程倒した、リザードマンの屍肉だろうか。
想像すると胸灼けのするような光景も、あの魔物を以てすればしっくり来るところも悍ましい。
声が出そうになるのを抑え、ぐっと息を呑み‥‥私も杖に手を掛ける。
「ーーセツナ様」
ルインさんが顔を向けないままで、囁くように呼び掛けて来た。
「‥はい」
「あの魔法‥‥出来ますか」
「——あ‥」
‥‥ルインさんが云う魔法とは、きっと‥‥。
先程、上層の庭園でも一緒に使った、あの魔法だ。
攻撃になるけれど、強力な援護にもなる雷を纏う凄まじいまでの技を為す魔法。
あの時の魔力を解放し纏う感覚を、もう一度‥‥。
「はい」
ルインさんに顔を向け、しっかりと頷き掛けた。
再び前を向く時、彼女の表情が少し緩むのが見えた。
それから視線を此方へ流し、小さく頷いてくれた。
「イージス、アツシさん」
視線を前へと戻し、なるべく静かに、けれどはっきりと先を往く二人へと声を掛けた。
呼ばれた二人が振り向き、静かに杖を構えるルインさんの様子を見守る。
「先に魔法を仕掛けますわ。少しお待ちを」
頷く二人と、私も一瞬目が合った。
同じく杖を目の前に上げ構え、頷き返した。
オーガから動かした視線をもう一度戻しながら背を向ける二人の後ろ、私達も相手を見据えながら密やかに詠唱を紡いでゆく。
あちらも屍肉を漁ることに夢中で気付かれてないとはいえ‥‥あまりのんびりとも出来ない。

ーー場所の悪さからも、失敗は許されない。
集中を高め、ルインさんと同じペースで魔力を重ねるイメージを持ちながら詠唱する。
雷の魔法の持つ紫色の光が、杖先から少しずつ溢れ始める。
びりびりと伝わる刺激が徐々に体中に流れ始めるような、ただ放つだけの魔法とは違う感覚。
‥‥きっと、間違いない。
それらが頭の先から爪先まで、全身に行き渡るような感触に包まれた瞬間。
私とルインさんが、同時に大きく腕を水平に開いた。
バチバチと雷が弾ける音、眩い光。
ーーやった!
私達だけでなく、イージスさんとアツシさんの二人の体も紫の光に包まれた。
「‥‥参る」
「行きます!」
此方も同時に飛び出した、それぞれの剣を構えた剣士二人。
流石に向かうオーガも音と光、それに気配に気付き、吠え声を挙げながら立ち上がった。
やはり、先程見た巨大なリザードマンなどよりも、更にかなり背も高く大きい。
アツシさんの長い剣が、イージスさんの煌めく剣が、それぞれ刃を穿つもーー。
簡単にはびくともせず、拳を振り上げ始める。
やはり此処の魔物は、強靭さを増しているのだろうか‥‥。
なるべく剣士二人から離れすぎないよう、魔法を維持したままゆっくり後に付く。
初めから強力な魔法を以て掛かっても、直ぐには決着は付きそうにない。
ごくりと唾を飲み下しながら、前衛二人の戦いから目を離さず気力を注ぎ続ける。
‥‥なるべく長く‥‥!
そう思いながらも、やはり身にも纏う分の負荷が掛かり、額に汗が滲み始める。
隣のルインさんにちらと視線を流してみると、やはり彼女も集中する中に緊張も感じているようだった。
このまま、別の魔法も使えたら‥‥。
此の雷の魔法だけでも攻撃威力はあると分かっているものの、そうもどかしくも感じてしまう。
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