表記について

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8

まるで杖から波でも押し出されるような振動と、辺りを震わせる大きな音。
「‥‥!」
思わず目を閉じたくなるような衝撃に、少し肩を竦めてしまいながら‥‥。

私とルインさんのそれぞれの立ち位置から正面向かって伸びる氷の柱に、視界が塞がれる。
ーー出来た‥‥!
魔物へ向かって伸びきった氷の柱は、光を受けてきらきらと無機質に輝いていて。
綺麗だと見惚れて、一瞬戦いを忘れてしまいそうになる。
私には出来ないかもしれないと思っていたから、余計にかも知れない。
けれど少しの間を置いて、ぱきぱきと音を立ててその氷が砕け始めた。
と、魔物の姿が少しずつまた見え始めて、現実に引き戻される。
「‥‥少しは効いたでしょうか‥?!」
ルインさんが、誰ともなく口にする。
それはやはり、不気味な大きな目玉が変わらず正面に浮いていたからだろうか。
「‥‥ええ、きっと‥‥!」
ルインさんに、そして自分に言い聞かせるように、私も言葉にして返す。
そう思わなければ、そしてそういうつもりで戦わなければ、表情すら持たない相手とは戦えない気がして。
何とか気を奮い立たせながら、もう一度改めて魔物を見据え杖を構え直す。

その刹那、またも眼球に妖しい光が灯り始めた。
「——む、回避を‥‥!」
瞬時に挙がったイージスさんの掛け声に、皆まるで息を合わせたように一気に大きく跳んだ。
身の振りも考えていられない、本当に一瞬。
横跳び、というのだろうか。
大きく身を乗り出すように、まるで海へ飛び込むように床へと。
「‥‥っつ‥‥」
鈍く床を擦るような音とともに、腕に軽く熱と痛みが走る。
光を見ないように、咄嗟に顔を腕で庇っていたから‥‥。
もう、体が石になるような苦痛は味わいたくない。
それに比べれば、擦り傷など問題ない。
床に伏せたまま、光が消えるのを少しの間待つ。
きっと、見なければ大丈夫な筈‥‥?!
それでもどこか、生温く不快に感じるような空気には包まれるけれどーー異変は起こってこない。
「大丈夫、ですか‥?」
背中に、ふわりとルインさんの手が掛かる。
そうだ、何時までもこうしてはいられない、起きなければ。
ついつい、此処は戦いの場だというのを、忘れている訳では無いのに忘れそうになる。
「はい‥、ごめんなさい」
「ーーいえ」
顔を上げれば、ふわりと微笑むルインさんの顔がすぐそこにあった。
「もう少し‥、きっと、もう少しですわ。」
それでいて強く励ましてくれる言葉に、また気力が湧いてくる。
その励ましにただ頷き、顔を上げた。
イージスさんとアツシさんも、その言葉に同調するようにしっかりと頷いた。
「さあ、アツシ殿。‥我らも」
「——ええ。」
そして二人は顔を見合わせて頷き合い、どこかの方へと走ってゆく。
ーーその先は‥‥階段?
下へと降りてゆく二人の先に、何があるのか‥‥?
その背中を見送るうちに、私の背にもう一度、ルインさんの手が触れた。
「さあ、行きましょう。急いでください」
「‥‥え‥?」
返事をする間もなく、少し背を押され促された。
杖を手に握ったまま、先に行った二人を追い私達も駆け出す。
階段はそこそこ長く続いていて、下に降りれば上の通路とはまた違った景色が広がって見える。
上の階がただ石床をぐるりと張り巡らせた通路なら、下の階は自然に草の生い茂る庭という感じだろうか。
上の階より更に草木の豊かに茂る、広い空間になっている。
大きな魔物が浮かぶ、その下の地面をよく見渡してみると‥‥。

またも触手が無数に生えて来るその中に、一か所ぽつりと‥‥いや、かなり違った事が起きている箇所を見つけた。
触手が等間隔に生え立ち、その中心をとても明るく綺麗な光に照らしている。
実際、魔法の光も綺麗だと思う事があるけれど、それよりも‥‥本当に綺麗な淡く眩しい薄紫の光。
「‥‥あれは‥‥?」
見惚れるままに立ち止まり、何が起こっているのか意識の中で調べようとしてみる。
勿論、全く分からないのだけれど‥‥。
それでも、目を奪われるほどにその謎の光はとても綺麗だった。
「きっと、先の攻撃が聞いた証拠ですわ」
ルインさんがつと、指さす先。
よく見ると、中心に浮かぶ円い発光体は、まるで獣の目玉のようで‥‥。
綺麗な淡い光の中にも、垣間見える鋭さは。
きっと、あの大きな魔物の‥‥?!
「‥‥さあ、あれを叩きましょう」
私の考えが伝わったかのように、ルインさんは一度頷いて。
杖を其方へ向けて素早く構え、魔法の詠唱を始めた。
「承知!」
イージスさんも剣を突き出して駆け、発光体へと向けて大きく斬り込む。
その横で、アツシさんが周りに立つ触手を大きく薙いでゆく。
二人の剣の攻撃が、それぞれ発光体へと当たれば、その衝撃が光弾となって‥‥魔物の本体へと砲撃のように流れてゆく。
「‥‥ふん。」
それをちらと確認するように、イージスさんが魔物へと顔を向けてにやりと笑った。
それと同時に、アツシさんの薙ぐ剣が、発光体の周りの触手を全て斬り払ったとき‥‥。

「今ですわ!」
ルインさんの掛け声と、時を同じくしてーー宙に浮いていた魔物が地に墜ちた。
まるで、その鋭い声が形になったように。
彼女の放った雷の魔法が、発光体を撃った。
光輝く球体が、更に眩い光に包まれる。
そしてそこへ、イージスさんの銀色に輝く剣が、まるで光すら切り裂くように素早く閃く。
それを追って、アツシさんの剣が縦に大きく振り下ろされる。
全ての攻撃は、次々と絶え間ない砲撃となって魔物の本体へと降り注ぐ。
ーー私も、ただ見てはいられない。
皆の全力での攻撃に、私も闘気が奮い立つように杖を持つ手に力が籠る。
今持てる強い力を、全て開放するつもりで。
この機を逃せば、また戦いが長引くだけだと‥‥あの魔物のそもそもの大きさと、あの強い力を思えば何と無く想像できる。
先程の、氷の魔法での攻撃も、確かに使えるかもしれないけれど。
‥‥此処は、今までよく使ってきた力に賭けてみよう。
そして、皆が発光体を攻撃している間にーー私は、あの本体を。
皆に背を向け、手を振り上げて杖を構える。
背後から、魔物へと流れてゆく光弾すら、まるで皆の支えのように感じながら。
ーー炎の‥‥壁‥‥、ううん、降り注ぐ程の炎の嵐を。
「——どうか‥‥炎の力を‥‥」
しっかりと魔物の方を向いたまま、目を閉じて”あの時”の光景を思い浮かべる。
遺跡で”竜”とーーあのひとと戦った、あの時の事を。

きっと、これから先、どんな強大な魔物とでも戦っていけるようにとーー僅かにでも力を引き出してくれたのなら。
今此処で、それを使う時だと思うから。
どうしても、此の部屋の先へ‥‥皆で揃って進んでいきたいから。
皆と一緒に、私も‥‥今持てる全ての力を。
徐々に体が、ふわりと浮いてゆくのを感じた。
見えない”精霊”の力に、支え押し上げられるように。
意識を集中させる中、”祈り”の詞と、炎の攻撃の想像力を最大に膨らませてーー目を開けた。
「ーー払う力を!」

一息の、けれど思うより長くすら感じる間を置いて。
どこからともなく、静寂を破って無数の炎が降り注いだ。
大きな魔物の姿も、そして周りの景色もーー全てが轟音を立てながら上がる爆炎にかき消されてゆく。

ーーそして私も、意識がふっと途切れるように‥‥目の前が真っ暗になった。
その中で僅かに感じたのは、私を抱き留めるーー暖かい腕の感触だった。
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