表記について

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1

迷宮の入り口は、ただ静かにーー侵入者を拒むことも特別惹き入れる事もなく、開いている。
陽の光は全く無く、暗い空気が立ちこめるこの島の探索は、きっと楽なものでは無い。
そう、予想はつくものの……。
でも何故か、ただ引き返そうとは思わない。

此処へ足を踏み入れるのも、そして引き返すのも自由。

強制はされていない。それでも…。

ーーやっぱり、行こう。
もう一度深呼吸し、ゆっくり歩を踏み出した。

"ある人を……助けて欲しいのです。"

この島へ渡った私にそう言った、島への案内人オルガさんーー。
自らの素性すら…ただ名前しか思い出せない彼女の、けれどもどこか自ら懇願するようなその瞳に。
何を求めようとも思わず、ただ自然と頷いていた。
そして、その願いを叶える為に務める事で……努力することで。

私自身、竜に臨む覚者として生きる意志をーーこのまま自らの中に抱く想いをーー。
持ち続けていていいのか、答えが見つかる気がした。
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けれどそれは、私自身の自分勝手な意思だとも思う。
表向きは、他人の願いを聞き入れながらも……根底では自分の事ばかりを考えているのだから。

……それでも……。
私自身、どう自分の居場所を見付ければいいのか分からなかったから。
せめて何か少しでも、強く生きる為のきっかけが欲しいのかも知れない。

ただ黙々と先を歩く彼ーー従者であるアツシさんは、勝手な行動を重ねる私をどう思っているのだろう?

ーー声を掛ける事も出来ず、ただその広い背中に付いて歩く。

外門をくぐり、そこから少し階段を降り進むと。
改めて、迷宮の入口たる大きな扉が据えられてあった。

「ーーセツナ様」

その扉の前、立ち止まり隣に並んだところで。
彼がさり気にこちらを伺い、低く問いかけてきた。
その声に、どこか柔らかさがあるように感じたのはーー。
そして……今までと何か違うように感じるのは…?

ーーでも…彼はーー。
一瞬考え込み、すぐに返事が出来ない。

「この先へーー本当に進まれるのですね?」
強い眼差しに、何故か言葉が出ない。
それはやはり、私自身の中に、どこか後ろめたさがあるから…?

ーー何も言えないまま、ただゆっくりと頷いた。

「ーーわかりました」
言いながら扉へ向き直る彼に、どこかほっとしながらーー扉の取っ手へと手を伸ばす。
……と、何か温かなものが指に触れた。

「この先は、今まで以上に…格段に危険な場所です」
そして、ぎゅっと包まれるこの感覚は…。

「ーーどうか、傍を離れられぬよう」
ーー握られた手。
戸惑い、慌てて解こうとした。
けれど……更に強い力で握られ、離せない。

……どうして……?
彼の顔が見れず、真っ直ぐ俯いたまま…。
空いている手で探るように、取っ手を握り引いた。
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