表記について

・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。

1

杖を握りしめたまま、庭園の内部へとそろりと歩を進めた。
此処もまだ吹き抜けた天蓋から空が臨め、辺りがざっと見渡せる。
中央には石像の群れが建っているけれど、それでも僅かにでも向こうが見える程広い。

今見た限りで、確認出来る敵はーー。
武器や松明を持ったゴブリンの群と、棍棒を握ったサイクロプス一体。
アツシさんが引きつけてくれているのはーーゴブリン達。
なら後は、自由に動き回っているのは……。

確か、サイクロプスの弱点は。

この狭い空間では、あまりじっくり対策を練る暇もない。
なるだけ素早く、雷を呼ぶ呪文を紡ぐ。

b4583a18c672271cfa4c83de0b2dd494_l.jpg

ーーと、その時。
「……セツナ!」
乱戦の音に混じり、アツシさんの切迫した声が響いた。
同時に、すぐ側で甲高い雄叫び。

ーーこの声は…、ゴブリン?!
まだ残っていた?!
ゴブリン達は確かに、ある程度の知恵の働く魔物。
視界が木や障害物に阻まれたその陰に、予め潜んでいたものが居てもおかしくない。
でも今、まさかこの時に。
こちらへ近付きつつある、巨大なサイクロプスを前にして…?
ーーそれぞれに、前後を取られた形になっている。
まずは、身の安全をまず守らなければいけないのも分かってる。
……けど、今詠唱を中断するのも…!?

迷っている間にも、ゴブリンが横手から飛び掛かってくる気配を感じーー思わず身を屈めようとした。

ーーと、その刹那。

「ーー覚者様!雷の力をその身に移すのです!」
先程通ってきた通路の奥から流れ来る、聞き覚えのある声。
雷の力をを体に纏う魔法を、以前確かに見た事がある。
初歩的な雷を撃つ魔法も、そう、そのひとが私に……。
当時の様子を瞼の裏に思い浮かべ、自らの身に纏うイメージへと重ねる。

ーー天翔ける雷よ…、我が身に力を……!

"祈り" の詞を唱えるように、短く念じる。
初めて使う大きな力を操るには、この方が良いと思えた。

自然の力を吸収し解放するように、手を大きく広げた瞬間。
ゴブリンの鋭い絶叫が、爆ぜる雷撃の音に混じり溶けた。

「セツナ…、無事で…!」
ゴブリンの群を斬り進みながら、アツシさんがこちらへ近付いてくる。
すると徐々にその姿は、雷の魔法の紫光に包まれてゆく。
自分では、全く初めての実践ながらも……。
どうやら、雷を纏う術は成功しているらしい。
だからといって気を抜くと、きっとその効果が消えてしまう。

「……まだ…!」
耳から入る雷の爆ぜる音と、視界に映る眩い紫電の光。
この感覚を、少しでも長く…!
杖を握る手に力が篭り、うっすら汗が滲む。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください