表記について
・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。
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外に出る身支度を全て整えて、階下へと降りる。
もう昼時の宿の1階は、扉の開け閉めがあるたびに外の生活音が聞こえて来る。
手すりを伝いながら階段を降りる途中で、玄関先で待っていたアツシさんがこちらを振り返った。
一瞬、何か言いかけて、けれどそれを止めてふわりと微笑う。
昨日着せてもらった、豪奢な白いローブ程ではないけれど。
今日はまたゆっくり過ごせるのだからと、また島で着ていた水色のローブを選んで着た。
髪も昨日ルゥさん達にして貰ったように、横に流して‥‥少しは小奇麗にしてみたつもりだ。
「——良いですね」
彼の前に立つと、そう言ってくれた。
つい照れてしまい、返事に窮していると、彼はただにっこりと笑って。
「行きましょう」
彼は私の肩を抱くようにそっと手を回し、もう片方の手で扉に手を掛けた。
「はい」
小さく返事をしながら、彼の温もりにほんの少し力を抜いてもたれかかる。
ーーと。
「あら、いってらっしゃい♪」
背後からの軽やかな声に振り返ると、ちょうど奥から出て来たエムさんが手を振っていた。
その横で、黙って笑みを浮かべながら此方を見ているアッサラームさんも居る。
自分でもつい、堂々と彼に甘えてしまっているのが、急に恥ずかしくなる。
ともかく、背筋を伸ばし直して二人に会釈しながら、
「いってきます」
とだけ残して通りへ出た。
宿を出て直ぐ前に拡がる明るい広場の、静かに水を湛える噴水の横を、何気なく通り掛かろうとした時。
縁に立って話している人たちの声がーー少し、気になる話が耳に入って来た。
”森の魔女‥‥”、”竜を‥‥”、”‥魔女狩り‥”
内容は良く聞き取れなかったけれど、何やら不穏な空気を感じる。
それはアツシさんも同じようで、隣で眉根を寄せてその様子を見詰めている。
そんな彼の横顔を見上げていると、私の視線に彼が目を合わせながら口を開こうとした。
「——セツナ‥」
その時、ぽんぽん、と私の肩を叩く誰かの手に気付き、其方を振り向いた。
「?‥‥あっ」
「やっほ。どうしたの?今からお出かけ?」
二つに結い上げた髪を揺らすように、軽やかな微笑みと共に小首を傾げるルゥさんがそこに居た。
「はい、あの‥‥お昼を食べに」
「そっか、じゃあ一緒にいこ!」
答えるなり、ルゥさんは私達二人の肩にそれぞれ手を回して、背中を押した。
「は、はい‥」
既に足は、勢いで行先へと向かいながら。
突然の流れに、嬉しくも少し躊躇しながら、アツシさんの顔をもう一度見上げる。
彼も苦笑しながら頷いてくれたので、急遽昼食は三人で摂ることになった。
アースミスさんの店へと、雪崩れ込むように入っていくと、やはり今日も店は賑わっていて。
ネッティさんがくるくるとテーブルに食事を運んで回ったり、アースミスさんも注文を訊いたり忙しそうだ。
一番手前のテーブルの席が空いていたので、奥側にルゥさん、入り口側に私とアツシさんが並んで座る。
席に着いてすぐ、
「あら、いらっしゃい!」
と、いつも通り明るく迎えてくれたネッティさんに、素早く注文を通す。
とりあえず、チーズサンド、豆のスープ、ハーブ入りサラダ、唐揚げなど、朝食を抜いている分少し多めに人数分の食事を頼んだ。
それらをメモし終えると、ネッティさんは「お待ちを」、とまた急いで奥まで戻っていく。
彼女の、その様子をなんとなく見送っていると、ルゥさんが軽い口調で尋ねてかけてきた。
「ねえ、セッちゃん。次はまたどこか行くの?」
机に頬杖をつくように、手に顎を乗せてこちらを見ているルゥさん。
リラックスした姿勢ながら、それでもやはり彼女の目は真剣だ。
またどこかへ発つならと、内心で案じてくれているのだろう。
「ううん、まだ何も‥‥なんですが‥」
つい、店の外の、先程の話を耳にした噴水の方へと視線が動いてしまう。
「ん?——ああ‥」
ルゥさんも其方を見遣り、少し表情が鋭くなる。
「ルゥさんも‥‥聞いていたのですか」
私が訊ねるより先に、アツシさんが口を開いた。
彼の表情も、少し鋭く曇っている。
「何やら物騒な話ですね」
「‥‥うん」
アツシさんの率直な感想に、ルゥさんも短く答えながら頷く。
「はーい、お待たせー」
そこへ丁度ネッティさんが、幾らかの食事を運んできてくれた。
素早くテーブルに並べると、また奥へと引き返していった。
と、今度は、大きなお盆にアースミスさんが残りの全ての食事を乗せて運んできてくれた。
「やあ、いらっしゃい。今日は三人さん一緒かい」
ネッティさんと同様、忙しい中でもこの人も笑顔を絶やさない。
二人の対応に、私達も少し肩の力が抜け頬が緩む。
「うん、さっきそこで会ってねー。あ、あたし後でチョコプリン」
ルゥさんが、いつもの屈託ない口調に戻って挨拶がてら注文を伝える。
思わず、ルゥさんらしさに少し笑ってしまいそうになっていると、彼女は此方を振り向きながら言葉を続けた。
「セッちゃん達もいるでしょ?一緒に持って来てもらおうよ、あたし奢るから」
「え?あ、はい、あの‥」
つい返事に迷っていると、ルゥさんは表情を輝かせながらアースミスさんに向かって続けた。
「おやじさん、じゃあ三つね。‥‥って、この分はこないだのバイトの分のチャラでいい?」
「ああ、そうだったなあ。あんたは相変わらずうまいな」
ルゥさんの言葉に、アースミスさんはにやりと笑い返しながら頷いた。
何の事だろう?
話が全く分からないけれど、ルゥさんとアースミスさんは元々知り合いらしい。
確かに、この二人なら気が合うかも‥‥などと少し思いながら。
「じゃあ皆ごゆっくり。まあ、ゆっくりしていきなよ」
「おやじさん、ありがとー」
また接客へと戻っていくアースミスさんを見送り、そしてルゥさんは軽く手を振る。
「それで、あの‥‥」
食事が揃ったところで、先程の話を続けようとしたのだけれど。
ルゥさんが両手を此方に向けて振ってから、ナイフとフォークをその手に取った。
「まあ先ずは、いただきますしよう?食べながら話そうよ」
にっこりと笑う彼女につられて、やはり少し肩肘の力が抜ける。
彼女が此処に居てくれて良かったんじゃないかと、暖かい食事を口に運びながら頬が緩む。
皆の食事がある程度進んで、空腹がだいぶ満たされてきた頃。
「さっきの話なんだけどさあ」
ルゥさんが一番に先の話を、再び真剣な表情で口にする。
いつもと比べると、少し声は抑え気味だ。
ナイフとフォークを置き、水を一口含む。
「あたし、最近その森に行ったのよね。‥‥魔女、には会えなかったけど」
「‥‥え‥‥」
「でね、ちょっと心配なわけよ‥」
何かを思い浮かべるように、腕組みしながら考え込むルゥさん。
そこには、何があるんだろう?
私も食器を置き、手をぐっと膝で握った。
彼女が心配をするような何かがあるなら、それなら‥‥。
一度、アツシさんの方へと顔を向けて、目線で伺う。
彼は一瞬、考えるような表情を見せたけれど、それもすぐ消えて黙って頷いてくれた。
その了解を得て、改めてルゥさんを真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「あの、私達と‥‥そこへ行きませんか?」
ルゥさんの、強い光を湛えた瞳が上がった。
もう昼時の宿の1階は、扉の開け閉めがあるたびに外の生活音が聞こえて来る。
手すりを伝いながら階段を降りる途中で、玄関先で待っていたアツシさんがこちらを振り返った。
一瞬、何か言いかけて、けれどそれを止めてふわりと微笑う。
昨日着せてもらった、豪奢な白いローブ程ではないけれど。
今日はまたゆっくり過ごせるのだからと、また島で着ていた水色のローブを選んで着た。
髪も昨日ルゥさん達にして貰ったように、横に流して‥‥少しは小奇麗にしてみたつもりだ。
「——良いですね」
彼の前に立つと、そう言ってくれた。
つい照れてしまい、返事に窮していると、彼はただにっこりと笑って。
「行きましょう」
彼は私の肩を抱くようにそっと手を回し、もう片方の手で扉に手を掛けた。
「はい」
小さく返事をしながら、彼の温もりにほんの少し力を抜いてもたれかかる。
ーーと。
「あら、いってらっしゃい♪」
背後からの軽やかな声に振り返ると、ちょうど奥から出て来たエムさんが手を振っていた。
その横で、黙って笑みを浮かべながら此方を見ているアッサラームさんも居る。
自分でもつい、堂々と彼に甘えてしまっているのが、急に恥ずかしくなる。
ともかく、背筋を伸ばし直して二人に会釈しながら、
「いってきます」
とだけ残して通りへ出た。
宿を出て直ぐ前に拡がる明るい広場の、静かに水を湛える噴水の横を、何気なく通り掛かろうとした時。
縁に立って話している人たちの声がーー少し、気になる話が耳に入って来た。
”森の魔女‥‥”、”竜を‥‥”、”‥魔女狩り‥”
内容は良く聞き取れなかったけれど、何やら不穏な空気を感じる。
それはアツシさんも同じようで、隣で眉根を寄せてその様子を見詰めている。
そんな彼の横顔を見上げていると、私の視線に彼が目を合わせながら口を開こうとした。
「——セツナ‥」
その時、ぽんぽん、と私の肩を叩く誰かの手に気付き、其方を振り向いた。
「?‥‥あっ」
「やっほ。どうしたの?今からお出かけ?」
二つに結い上げた髪を揺らすように、軽やかな微笑みと共に小首を傾げるルゥさんがそこに居た。
「はい、あの‥‥お昼を食べに」
「そっか、じゃあ一緒にいこ!」
答えるなり、ルゥさんは私達二人の肩にそれぞれ手を回して、背中を押した。
「は、はい‥」
既に足は、勢いで行先へと向かいながら。
突然の流れに、嬉しくも少し躊躇しながら、アツシさんの顔をもう一度見上げる。
彼も苦笑しながら頷いてくれたので、急遽昼食は三人で摂ることになった。
アースミスさんの店へと、雪崩れ込むように入っていくと、やはり今日も店は賑わっていて。
ネッティさんがくるくるとテーブルに食事を運んで回ったり、アースミスさんも注文を訊いたり忙しそうだ。
一番手前のテーブルの席が空いていたので、奥側にルゥさん、入り口側に私とアツシさんが並んで座る。
席に着いてすぐ、
「あら、いらっしゃい!」
と、いつも通り明るく迎えてくれたネッティさんに、素早く注文を通す。
とりあえず、チーズサンド、豆のスープ、ハーブ入りサラダ、唐揚げなど、朝食を抜いている分少し多めに人数分の食事を頼んだ。
それらをメモし終えると、ネッティさんは「お待ちを」、とまた急いで奥まで戻っていく。
彼女の、その様子をなんとなく見送っていると、ルゥさんが軽い口調で尋ねてかけてきた。
「ねえ、セッちゃん。次はまたどこか行くの?」
机に頬杖をつくように、手に顎を乗せてこちらを見ているルゥさん。
リラックスした姿勢ながら、それでもやはり彼女の目は真剣だ。
またどこかへ発つならと、内心で案じてくれているのだろう。
「ううん、まだ何も‥‥なんですが‥」
つい、店の外の、先程の話を耳にした噴水の方へと視線が動いてしまう。
「ん?——ああ‥」
ルゥさんも其方を見遣り、少し表情が鋭くなる。
「ルゥさんも‥‥聞いていたのですか」
私が訊ねるより先に、アツシさんが口を開いた。
彼の表情も、少し鋭く曇っている。
「何やら物騒な話ですね」
「‥‥うん」
アツシさんの率直な感想に、ルゥさんも短く答えながら頷く。
「はーい、お待たせー」
そこへ丁度ネッティさんが、幾らかの食事を運んできてくれた。
素早くテーブルに並べると、また奥へと引き返していった。
と、今度は、大きなお盆にアースミスさんが残りの全ての食事を乗せて運んできてくれた。
「やあ、いらっしゃい。今日は三人さん一緒かい」
ネッティさんと同様、忙しい中でもこの人も笑顔を絶やさない。
二人の対応に、私達も少し肩の力が抜け頬が緩む。
「うん、さっきそこで会ってねー。あ、あたし後でチョコプリン」
ルゥさんが、いつもの屈託ない口調に戻って挨拶がてら注文を伝える。
思わず、ルゥさんらしさに少し笑ってしまいそうになっていると、彼女は此方を振り向きながら言葉を続けた。
「セッちゃん達もいるでしょ?一緒に持って来てもらおうよ、あたし奢るから」
「え?あ、はい、あの‥」
つい返事に迷っていると、ルゥさんは表情を輝かせながらアースミスさんに向かって続けた。
「おやじさん、じゃあ三つね。‥‥って、この分はこないだのバイトの分のチャラでいい?」
「ああ、そうだったなあ。あんたは相変わらずうまいな」
ルゥさんの言葉に、アースミスさんはにやりと笑い返しながら頷いた。
何の事だろう?
話が全く分からないけれど、ルゥさんとアースミスさんは元々知り合いらしい。
確かに、この二人なら気が合うかも‥‥などと少し思いながら。
「じゃあ皆ごゆっくり。まあ、ゆっくりしていきなよ」
「おやじさん、ありがとー」
また接客へと戻っていくアースミスさんを見送り、そしてルゥさんは軽く手を振る。
「それで、あの‥‥」
食事が揃ったところで、先程の話を続けようとしたのだけれど。
ルゥさんが両手を此方に向けて振ってから、ナイフとフォークをその手に取った。
「まあ先ずは、いただきますしよう?食べながら話そうよ」
にっこりと笑う彼女につられて、やはり少し肩肘の力が抜ける。
彼女が此処に居てくれて良かったんじゃないかと、暖かい食事を口に運びながら頬が緩む。
皆の食事がある程度進んで、空腹がだいぶ満たされてきた頃。
「さっきの話なんだけどさあ」
ルゥさんが一番に先の話を、再び真剣な表情で口にする。
いつもと比べると、少し声は抑え気味だ。
ナイフとフォークを置き、水を一口含む。
「あたし、最近その森に行ったのよね。‥‥魔女、には会えなかったけど」
「‥‥え‥‥」
「でね、ちょっと心配なわけよ‥」
何かを思い浮かべるように、腕組みしながら考え込むルゥさん。
そこには、何があるんだろう?
私も食器を置き、手をぐっと膝で握った。
彼女が心配をするような何かがあるなら、それなら‥‥。
一度、アツシさんの方へと顔を向けて、目線で伺う。
彼は一瞬、考えるような表情を見せたけれど、それもすぐ消えて黙って頷いてくれた。
その了解を得て、改めてルゥさんを真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「あの、私達と‥‥そこへ行きませんか?」
ルゥさんの、強い光を湛えた瞳が上がった。
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