表記について
・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。
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ーーー数日後、ある晴れた日の朝。
緩やかに雲が流れる青空の下、そよぐ風に乗って拡がり響くーー涼やかな笑い声。
「ーーなんて心地良いのでしょう…!」
どこまでも連なる山や森の鮮やかな緑を見渡し、草や土の感触を一歩ずつ確かめ踏み締める。
陽を受けて艶めく黒髪を揺らす柔らかな春風に、目を閉じ身を任せる。
波打ち靡く緋色の衣裳を纏う可憐な立ち姿は、まるで一輪の芍薬の花が陽を浴びそこに咲いたようで…。
そのーー姫の姿をーー目に留めながら。
少し離れて歩き供する青年ーーイオリは眩しげに目を細める。
そう、姫の念願叶い……いよいよ初めての外出の設けられたのだった。
出掛け際、シキの顔色が少し悪かったような気がするけれど。
今日は取り分け気候も良い。
たまにはシキもお付きの任からも離れて、ゆっくりしてくれるといいのだけれど。
長閑な風景や程よく暖かな外気の肌当たりが、姫をそんな気持ちにさせるのだろうか。
陽の光を受け煌めく額飾りに劣らぬ程の眩い輝きを瞳に映し、姫は興味深げに熱心に辺りを見回している。
そのうち何か見付けたようで、視線を留めた方へと小走りに駆ける。
「……まあ、あれは」
イオリもやや早足に後に続く。
姫の行くその先をよく見れば、一本の木の根元に数本の薄桃色の花が咲いていた。
「これも…同じお花ですのね」
半ば不思議そうに、そっと屈み込み、まじまじと眺める。
ーー姫は、城の敷地から外へ出た事が無い。
何処にでも咲いている花ですら珍しく見えるのだ。
「ーーこれは、日光花。月光花とは逆に、昼に咲く花です」
斜め後方に立つイオリの説明に、姫が視線を上げる。
「そうですのね…」
視線を外さぬまま、つと、立ち上がる。
「……イオリ様が仰ったとおり、ですわね」
「ーーええ」
見つめ合い、柔らかに微笑み合う。
……と、風が頭上の木の葉を揺らし、姫の髪にひとひらの緑の彩を添えた。
葉がかさりと髪に掛かる気配に、姫が目線をそちらへ送りながら指で探ろうとする。
「…動かないで下さい」
すかさず、イオリの手が伸びる。
葉を摘んで取り、少し眺めた後ーー目を閉じ、口に軽く当てがう。
「……まあ……」
息を吹きかけられた木の葉が、細く高い音を奏でる。
まさかそのような使い方が出来ると夢にも思わない姫は、目を丸くして凝視する。
イオリは一度目を開け微笑み、また目を閉じて規則正しく息を吹きかけ始めた。
そうしてイオリによって奏でられてゆく草笛の軽やかな旋律に、姫は暫くうっとりと目を閉じ耳を傾けるのだった。
風が止み際、笛の音が止んだ。
二人がそれぞれ、ゆっくり目を開ける。
「ーー素晴らしいですわ…!」
姫が胸の前で合わせ組んでいた指を解き、控えめな音を立て叩き合わせる。
思い掛けずの見聞からの驚きと、喜びからの満面の笑みに、イオリは微笑み返しながら軽く一礼する。
「…ありがとうございます」
その眼前に、衣の袖口から控えめに出された手が差し出される。
「わたくしにも、やらせて下さいな」
意外な言葉に、え、と一瞬面食らうものの…。
「……どうぞ」
無邪気な表情で見詰める姫の、たおやかな白い掌にそっと木の葉を乗せた。
緩やかに雲が流れる青空の下、そよぐ風に乗って拡がり響くーー涼やかな笑い声。
「ーーなんて心地良いのでしょう…!」
どこまでも連なる山や森の鮮やかな緑を見渡し、草や土の感触を一歩ずつ確かめ踏み締める。
陽を受けて艶めく黒髪を揺らす柔らかな春風に、目を閉じ身を任せる。
波打ち靡く緋色の衣裳を纏う可憐な立ち姿は、まるで一輪の芍薬の花が陽を浴びそこに咲いたようで…。
そのーー姫の姿をーー目に留めながら。
少し離れて歩き供する青年ーーイオリは眩しげに目を細める。
そう、姫の念願叶い……いよいよ初めての外出の設けられたのだった。
出掛け際、シキの顔色が少し悪かったような気がするけれど。
今日は取り分け気候も良い。
たまにはシキもお付きの任からも離れて、ゆっくりしてくれるといいのだけれど。
長閑な風景や程よく暖かな外気の肌当たりが、姫をそんな気持ちにさせるのだろうか。
陽の光を受け煌めく額飾りに劣らぬ程の眩い輝きを瞳に映し、姫は興味深げに熱心に辺りを見回している。
そのうち何か見付けたようで、視線を留めた方へと小走りに駆ける。
「……まあ、あれは」
イオリもやや早足に後に続く。
姫の行くその先をよく見れば、一本の木の根元に数本の薄桃色の花が咲いていた。
「これも…同じお花ですのね」
半ば不思議そうに、そっと屈み込み、まじまじと眺める。
ーー姫は、城の敷地から外へ出た事が無い。
何処にでも咲いている花ですら珍しく見えるのだ。
「ーーこれは、日光花。月光花とは逆に、昼に咲く花です」
斜め後方に立つイオリの説明に、姫が視線を上げる。
「そうですのね…」
視線を外さぬまま、つと、立ち上がる。
「……イオリ様が仰ったとおり、ですわね」
「ーーええ」
見つめ合い、柔らかに微笑み合う。
……と、風が頭上の木の葉を揺らし、姫の髪にひとひらの緑の彩を添えた。
葉がかさりと髪に掛かる気配に、姫が目線をそちらへ送りながら指で探ろうとする。
「…動かないで下さい」
すかさず、イオリの手が伸びる。
葉を摘んで取り、少し眺めた後ーー目を閉じ、口に軽く当てがう。
「……まあ……」
息を吹きかけられた木の葉が、細く高い音を奏でる。
まさかそのような使い方が出来ると夢にも思わない姫は、目を丸くして凝視する。
イオリは一度目を開け微笑み、また目を閉じて規則正しく息を吹きかけ始めた。
そうしてイオリによって奏でられてゆく草笛の軽やかな旋律に、姫は暫くうっとりと目を閉じ耳を傾けるのだった。
風が止み際、笛の音が止んだ。
二人がそれぞれ、ゆっくり目を開ける。
「ーー素晴らしいですわ…!」
姫が胸の前で合わせ組んでいた指を解き、控えめな音を立て叩き合わせる。
思い掛けずの見聞からの驚きと、喜びからの満面の笑みに、イオリは微笑み返しながら軽く一礼する。
「…ありがとうございます」
その眼前に、衣の袖口から控えめに出された手が差し出される。
「わたくしにも、やらせて下さいな」
意外な言葉に、え、と一瞬面食らうものの…。
「……どうぞ」
無邪気な表情で見詰める姫の、たおやかな白い掌にそっと木の葉を乗せた。
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