表記について

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9

天高く、陽が昇り切る少し前の頃合い。

地に映る影が光の加減で短くなり、各々の足から離れぬように、
二人も早朝出掛けて来た当初よりもすぐ側を歩きながら、景色や会話を愉しんでいた。
草木の緑に癒され、色とりどりの花を愛で、息付き唄う鳥のさえずりを聴き、そして……。

「ーーまあ、こんなところに」
川のせせらぐ水際の、岩場の陰に見付けた野生の葡萄に。
手を伸ばし、房に大事そうに触れながら角度を変え眺める。
「葡萄が生っておりますのね」
「そうですね…。私が採りましょうか」
イオリが葉のついた房を、あまり揺らしすぎないように一瞬だけ力を込めちぎり取る。
その間に姫は絹で織られた布を取り出し…。
掌に広げ、その上に大事そうに葡萄を受け取った。
「ーー綺麗」
姫がうっとり、目を近付け眺める。
その言葉通り、遮るものもなく陽の光を浴びる葡萄は、粒の一つ一つが宝石のように輝いていた。

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ーーと、その上にぽつぽつと水滴が垂れた。
そしてそのうち、姫の顔や手にも。

見上げると、まだ太陽の光は射しているもののーー。
風が徐々に強く吹き始め、雲が流れ貯まり、少しずつ空を覆い始めていた。
「……雨、ですね…」
イオリも掌をかざし、辺りを見回す。
「あんなに、晴れてましたのに…」
「仕方ありません。本降りになる前に帰りましょう」
姫はほんのり表情を曇らせ、布で包み込んだ葡萄を胸に抱えながら頷く。

そして、城への帰り道を歩くうち。
雨は唐突に勢いを増し、ますます強くなる風と…遠くから聞こえ来る雷鳴が微かに耳に入る。
「…姫様」
姫が濡れてはいけないと、マントをばさりと広げて被せ庇う。
「…イオリさま…」
「ーーまずいですね。このままでは…」
空を見上げ、イオリが眉根を寄せる。

この時期の突然の天候の崩れ、そして突風に大雨。
それはーー春の嵐と呼ばれる大荒れの天候。
城への道程は、まだこのまま突っ切って帰るには少々遠い。
雨に濡れるだけならまだしも、折れた枝や石が飛ばされ来れば、怪我までも負いかねない。
イオリ自身は、鍛え上げられた体を持っている。
少々の事では堪えない。しかしーーー。

「どこか少し、退避出来るところを探しましょう」
「ーーはい…!」
マントと腕で姫の身を庇いながら、風雨の中を目を凝らし進む。
まずは横道へ逸れ、木々の茂る林の中を進む。
枝葉に直の雨風が遮られ、直撃を凌げる。
風に煽られた木々ががさがさと音を立て、薄暗く感じる中を歩くのは、此れもまた姫にとっては初めての出来事。
寄り添うイオリの体温に何とか平常を保ち、足をもつれさせないよう気を張りながら進む。
マントで庇われながらも、やはり吹き込む雨に衣裳がたちまち濡れそぼってゆき、張り付き体が冷えるような感覚。

今まで一度もこのような荒行に耐えたことのない姫の、歯の根が震え始めた頃。
あと数十歩の距離にぼんやりと、古びた小屋が見えた。
「ーーとりあえず、あそこへ…!」
ただ黙って頷く姫の肩を、イオリが力を込め揺する。
「大丈夫ですか…?」
「はい…」
「ーー失礼します」
「……えっ?…きゃ…」
すぐ側で見上げ、白みを帯びた顔色で微かな笑顔で応える姫を、イオリは軽々と両手で抱き上げた。
そのまま、一気に駆ける。
突然の体制に姫はぎゅっと目を閉じ、服にしがみ付く。
あまりにも急な、不慮の出来事の中ながらもーー。
イオリの懐で揺られながら、姫はその温かさに少し和らぐような心地を覚え目を閉じた。
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