表記について
・R指定表現のあるページには、(※R) を付けています。苦手な方は読み飛ばし下さいませ。
・最新の更新ページには、★をつけておきます。そして、画像を新に貼ったページには、☆をつけておきます。
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通路を突き当たった扉、姫の部屋の前で。
いつもシキは、丁寧な挨拶を残し去ってゆく。
ーーけれどこの日はーー。
開けた扉を、姫の背後でがしりと掴み止めた。
すぐ閉まる筈の扉が動かず、振り返ろうとした姫の背中を。
「ーーー?」
思わず、その肩をーーきっと彼自身にも思い掛けず、ふわりと抱き締めていた。
姫の動きが、まるで時が止まったようにぴたりと固まる。
手が離れた扉が、ぱたんと閉まる。
「あ、あの……、シキ…?」
姫の口から小さく漏れる疑問符に、耳を貸しながらもそのまま黙って目を閉じる。
「ーー姫様…」
まだ明かりの灯されていない、薄闇に覆われた部屋の中ふたり。
肩口に顔を埋めながら、ぼそりと返す言葉はただそれだけ。
「……?」
ーーとくん、とくん…。
少しずつ、速まる姫の鼓動が伝わって来る。
そしてシキは、はっと思い直すように。
目を開け、顔を上げながら手を離す。
「ーー、すみません…」
それから彼は黙ってかぶりを振り、手を離すとーー姫に背を向け、数歩進み出て燭台に手を翳し灯りを差す。
「何でもありません。…心配…だったもので…」
彼らしく淡々と述べながら、けれど珍しく目を泳がせながら振り返る。
その様子に……姫も僅かに俯き胸に手を当て、動揺を抑えながら呟く。
「ーーそう…。あの……、ごめんなさい…」
今日は姫の、初めての外出だった。
きっと、本当に心配だったに違いない。
わざわざ迎えに出ていた彼は、帰りがもう少し遅ければーー遂に自らの足で城から探しに出ていたかも知れない。
そう考えると、自然と素直な言葉が滑り出る。
そして服の上からーー無意識だろうがーー何かを掴むような仕草に。
それを目に入れるシキの目が、すっと細まる。
薄っすらと頬を染め、何かに想いを馳せるような姫のーー。
その肩口の側で扉に手を突き、直ぐ近くで静かに見降ろすように顔を近付ける。
おずおずと上目に視線を上げる姫と、真っ直ぐな、けれど冷ややかにすら感じるシキの視線がかち合う。
「ーー姫様……?」
「…な、なに…?」
今度は姫が、目を泳がせる番だった。
「彼と…、イオリ殿と…何か…」
姫はその言葉に、僅かにびくりと肩を震わせる。
そして益々頬を赤らめ肩を竦める様子に、対照にシキの顔から血の気が引く。
暫しの沈黙が流れーー。
姫の目の高さに合わせて少し屈み、じっと覗き込む。
「ーー姫様…?」
短く、もう一度。
ただそれだけで尋ねながら、扉に手を突いている方と反対の手で、姫の何かを握る手を包む。
「ーー?」
シキの指先に、小さな硬いものが触れたような感覚。
……これは……。
口に出さず考えを巡らせ、そして。
「ーーまさか……」
「………」
つと目を逸らし、身を縮める姫の目が潤む。
「まさか……そんな…事は…」
シキの姿勢はそのままで、手がそれぞれ姫の両肩を掴む。
ゆっくりと目が合わされ、姫の口が微かに震えながら動く。
「ーーわたくし…。いえ、わたくし…たちは……」
言いながら睫毛の長い大きな目を伏せた姫のその言葉に併せて、シキの切れ長の目がゆっくり見開かれてゆく。
姫が一度小さく頷き、そして夢見るようなうっとりした表情で俯き。
「ーー愛し合って……います……」
「ーーーー 」
ーー呟くような、謳うような声の……けれど胸に強く響く言葉に。
言葉を失い姫の肩からぎこちなく手を離したシキが、ゆっくりとよろめくように後ずさる。
ーーでは、あの時の私の考えは…、そして……。
口に片手を当て、俯き気味に視線を彷徨わせーーそれから。
「ーーふっ……、ふ、ふふ……」
彼の手元から低く、笑い声が漏れる。
ただ、決して……その目は笑ってはいない。
彼の深い鶯色の瞳には、果たして何が映っているのかーー。
愉しさからでは無く、あくまで自嘲的に嗤う。
いつもシキは、丁寧な挨拶を残し去ってゆく。
ーーけれどこの日はーー。
開けた扉を、姫の背後でがしりと掴み止めた。
すぐ閉まる筈の扉が動かず、振り返ろうとした姫の背中を。
「ーーー?」
思わず、その肩をーーきっと彼自身にも思い掛けず、ふわりと抱き締めていた。
姫の動きが、まるで時が止まったようにぴたりと固まる。
手が離れた扉が、ぱたんと閉まる。
「あ、あの……、シキ…?」
姫の口から小さく漏れる疑問符に、耳を貸しながらもそのまま黙って目を閉じる。
「ーー姫様…」
まだ明かりの灯されていない、薄闇に覆われた部屋の中ふたり。
肩口に顔を埋めながら、ぼそりと返す言葉はただそれだけ。
「……?」
ーーとくん、とくん…。
少しずつ、速まる姫の鼓動が伝わって来る。
そしてシキは、はっと思い直すように。
目を開け、顔を上げながら手を離す。
「ーー、すみません…」
それから彼は黙ってかぶりを振り、手を離すとーー姫に背を向け、数歩進み出て燭台に手を翳し灯りを差す。
「何でもありません。…心配…だったもので…」
彼らしく淡々と述べながら、けれど珍しく目を泳がせながら振り返る。
その様子に……姫も僅かに俯き胸に手を当て、動揺を抑えながら呟く。
「ーーそう…。あの……、ごめんなさい…」
今日は姫の、初めての外出だった。
きっと、本当に心配だったに違いない。
わざわざ迎えに出ていた彼は、帰りがもう少し遅ければーー遂に自らの足で城から探しに出ていたかも知れない。
そう考えると、自然と素直な言葉が滑り出る。
そして服の上からーー無意識だろうがーー何かを掴むような仕草に。
それを目に入れるシキの目が、すっと細まる。
薄っすらと頬を染め、何かに想いを馳せるような姫のーー。
その肩口の側で扉に手を突き、直ぐ近くで静かに見降ろすように顔を近付ける。
おずおずと上目に視線を上げる姫と、真っ直ぐな、けれど冷ややかにすら感じるシキの視線がかち合う。
「ーー姫様……?」
「…な、なに…?」
今度は姫が、目を泳がせる番だった。
「彼と…、イオリ殿と…何か…」
姫はその言葉に、僅かにびくりと肩を震わせる。
そして益々頬を赤らめ肩を竦める様子に、対照にシキの顔から血の気が引く。
暫しの沈黙が流れーー。
姫の目の高さに合わせて少し屈み、じっと覗き込む。
「ーー姫様…?」
短く、もう一度。
ただそれだけで尋ねながら、扉に手を突いている方と反対の手で、姫の何かを握る手を包む。
「ーー?」
シキの指先に、小さな硬いものが触れたような感覚。
……これは……。
口に出さず考えを巡らせ、そして。
「ーーまさか……」
「………」
つと目を逸らし、身を縮める姫の目が潤む。
「まさか……そんな…事は…」
シキの姿勢はそのままで、手がそれぞれ姫の両肩を掴む。
ゆっくりと目が合わされ、姫の口が微かに震えながら動く。
「ーーわたくし…。いえ、わたくし…たちは……」
言いながら睫毛の長い大きな目を伏せた姫のその言葉に併せて、シキの切れ長の目がゆっくり見開かれてゆく。
姫が一度小さく頷き、そして夢見るようなうっとりした表情で俯き。
「ーー愛し合って……います……」
「ーーーー 」
ーー呟くような、謳うような声の……けれど胸に強く響く言葉に。
言葉を失い姫の肩からぎこちなく手を離したシキが、ゆっくりとよろめくように後ずさる。
ーーでは、あの時の私の考えは…、そして……。
口に片手を当て、俯き気味に視線を彷徨わせーーそれから。
「ーーふっ……、ふ、ふふ……」
彼の手元から低く、笑い声が漏れる。
ただ、決して……その目は笑ってはいない。
彼の深い鶯色の瞳には、果たして何が映っているのかーー。
愉しさからでは無く、あくまで自嘲的に嗤う。
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