表記について

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3

宿営地での夜は、なかなか賑やかなものだった。

野外で薪の火を囲んで食事を取りながら、バーン隊長や部下の兵士達と暫く談笑していた。
皆、私達の冒険の話を、興味深そうに、そして時折唸りや感嘆感お嘆の声を諸々に挙げながら聴いてくれた。
その中で受け答えのやり取りもしながら、遅くまで話は弾んだ。
食事の内容はおにぎりや肉を焼いたもの、そして付近で採れる果物など簡単なものだったけれど、皆で食べるそれらはとても美味しかった。
勿論お酒も沢山用意されて、アツシさんも騒ぎはしないものの、皆と楽しそうに酌み交わしていた。
彼は全く呑めない私とは違って、お酒にとても強い。
村の人達と沢山呑んで帰ってきても、顔色も態度も普段と全く変わらない。
それに引き換え、私は‥‥以前少し飲んだだけで眠ってしまうという迷惑をかけた事もあって、それ以来一切呑まないようにしている。

私は流石に、ある程度の時間には宿で休ませて貰ったのだけれど、アツシさんはその後も暫く起きていたようで。
いつの間にか隣で休んでいるような気配は、何と無く感じたものの‥‥。
予定の都合もあって起きる時間を早く設定していたので、多分あまり眠れていないんじゃないかと思う。
「ーーおはよう、セツナ」
それでもやはりいつもと調子の変わらない彼は、柔らかく挨拶してくれる。
「‥‥おはようございます」
此処で彼と初めて会った時、というか、彼と出会わせて貰った時。
リムに託した私の願いは、”強く安心出来る人”というものだった。
それは決して外れることなく、今現在もこうして彼と出会った此処で引き継がれている。
改めて考えると、少し照れ臭くも嬉しかった。

そんな私達が起き出したのは、朝の訓練を行う兵士達が集まり始める、まだどこにも陽が見えない頃。
まだ薄暗さの残る中、宿の番頭さんが出してくれたパンと果物ジュースを食べ、お礼と共に宿代を払って幕を後にした。
外へ出ると、兵士達は皆まだ軽装で、体操をしたり走ったりなどして、準備運動を始めているところだった。
「——やあ、おはよう!もう出発かい?」
「気を付けて行きなよ」
皆私達にすぐ気付いて、それぞれに手を振ったり声を掛けてくれる。
「おはようございます。‥‥はい、行ってきます」
私も軽く会釈を返しながら、挨拶を返した。
そのうち、隣で同じく会釈を返していたアツシさんの肩を、ばんと少し強めに叩いた人が居た。
「——おはよう、お二人さん。疲れは残っておらんかね」
まるで笑っているような軽い口調で、けれど気遣ってくれるその人は。
「おはようございます、バーンさん」
皆と同じく、まだ軽装のまま鎧を着込んでいない隊長がアツシさんの少し後ろに居た。
がっしりとした腕で、そのままアツシさんの肩を変わらずぽんぽんと叩きながら、
「そのうちまた一緒に呑もう」
そう言って二人で笑顔を交わしている。
彼らのそんな様子を見ながら、ほっこりと気持ちが緩みながらも、ちょっと羨ましくなる。
そのうち隊長の腕が、私達二人をがっちりと肩を組まれるように回された。
「二人とも、また会おう」
顔を見上げると、笑顔の残る中にも真剣な表情。
軽く励まされるような雰囲気で言われたその言葉に、私もアツシさんも短くしっかりと頷いた。


バーン隊長をはじめ、皆に暖かく見送られて。
いよいよ砦を後にした私達は、水平から顔を出し始めた朝陽を眩しく仰ぎながら、領都への道を歩き始めた。
以前は魔法も思うように使えず、此処を歩くだけでも恐々だったものだけれど。
今は二人でたまに立ち止まり、景色を眺めながらでもスムーズに歩いていける。
途中、オオカミの群れにも遭ったりするけれど、簡単な魔法で追い払ったりしながら、特に歩みを止める事も無い。
この分だと領都での約束も違えず、予定通りに到着出来そうだと少しほっとする。
アツシさんだけなら、こうして山道を歩かずとも目的地まで着けるのだけれど‥‥。
そんなことをふと思っていると、上り坂に差し掛かったところで彼の手が伸びて来た。
そのまま黙って手を繋いで引いて歩いてくれる彼には、私の思っている事がお見通しだったのだろうか?
「急がなくても‥‥時間には充分間に合いそうですね」
彼が言葉と共に向けてくれる微笑みに、はい、と小さく返事して頷いた。
朝陽の光が視界の横から射して来る、その眩しさの中で、彼の柔らかな表情が何と無く眩しく感じた。
きっと、私の頬は緩みっぱなしじゃないかと思う。
ーー改めてもう一度、彼がにっこりと笑いかけてくれたから。


やがて、緑の並木を抜けた先、橋の掛かる関所を越え。
高く聳える岩肌の切り立つ、見通しの悪い険しい峠道を歩きながら。
此処を以前は、同じく宿営地から出発した領都の一行と共に緊張しながら歩いていた事を思い出す。
あの時は指揮官のメルセデスさんや兵士の皆と、宿営地での戦果の献上物ーー斬り落とされたハイドラの首ーーを運んでいた都合もあったから、余計に緊張感に包まれていたのだけれど。
今はやはり、空を舞うハーピー達に、そしてたまに起こり得る落石の危機に‥‥二人では少し手間取る場面も有りながらも、順調に先へと進んでいける。
‥‥そういえば‥‥。
この峠は、他にもルゥさん達とも歩いた事が有るんだった。
先程通り過ぎた橋の向こう、遺跡の探索へ向かう時。
その際には”声”を失っていた私には魔法も全く唱えられず、何も出来ないもどかしさに歯噛みしたものだったけれど。

それから後に、やはりちゃんと挨拶も出来ないまま別れたルゥさん達に、もうすぐまた会えるんだ‥‥。
そして同じく、島で別れたきりのイージスさん達にも。
そう思う気持ちが、少し足を弾ませる。
「‥‥セツナ?」
私の僅かな歩調の変化に気付いたのか、アツシさんが短く訊ねてくる。
「ーーううん。あ、ほら‥‥見えてきましたよ」
峠の坂道をまずは上りきったところで、景色が拓ける崖際の足場。
そこへとつい小走りになりながら、今度はアツシさんの手を軽く引きながら向かう。
彼も、ふふと笑いながらそのまま付いて来てくれる。
眼下には、グラン・ソレンソの広大な平原と、その先に領都の大きな街が見える。
「——もうすぐですね」
「はい」
顔は向けないまま、改めて暫くゆっくりと二人でその広大な景色を見渡す。
そのうちぎゅっと、どちらからともなく繋いだ少し手に力を込めながら。
「行きましょうか」
「‥‥はい」
今度は顔を見合わせて返事しながら、また手を引かれながら歩みを再開した。

どこまでも拡がる広大な土地、その中心の大きな街。
その分、またきっと色んな事が待っている。
嬉しい事も、楽しい事も、苦しい事も‥‥きっと沢山。
この峠を抜けたら、また新しい日常が待っている。
少しずつ緊張も感じてゆきながらも、彼と繋いだ手の温もりに足取りを支えられ、都へと向かう。

これからはきっと、迷いや戸惑いに流される事もありませんように‥‥いや、きっとそんなことは無い。
ーー先ずは、心待ちにしていた皆との再会を楽しもう。
不安すらも心に射し込もうとする中、明るい気持ちになれるよう切り替えながら、しっかりと道を踏み締めて歩いた。
徐々に近づいてくる、久しぶりに見る領都の外壁に、そしてどこまでも拡がる緑の景色に様々な想いを馳せながら。
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