表記について

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4

領都の大きな門を潜ると、懐かしくも感じる石畳が足元から伸びている。
カサディスは路地がそのまま土むき出しなので、此処の風景を見るとやはり文化の違いを感じる。
通路の伸びる先からは、街の喧騒も聞こえて来る。
人通りも多く、店もなかなか閉まらない一日中賑やかなこの街は、初めて訪れた時には戸惑いばかり感じたものだった。
街の中の探索をするにも、当時は何故か一人で頑張らなければと思っていた私は、頭を捻りながらやっとの思いで目的の場所にたどり着いたものだった。
――そういえば。
ちらと、隣を見上げてみる。
目が合った彼が、ん?と小首を傾げる。
「あの、アツシさん」
「はい」
直ぐに還って来る返事に、やはり少し迷って、
「いえ、なんでも」
と辞めてしまう。
‥‥と。
「何ですか?」
「‥‥!」
覗き込んでくる顔に、思わずどきりとする。
「‥‥いえ、あの‥‥。いいんです」
「‥‥」
振り切るように小走りに進む私の後ろで、彼がくすっと笑うのが聞こえる。
ーーそう、私が訊きたかったのは、これだ。
でも訊きかけてやっぱりいいかなと思ったのも事実で。
無理やりではあるけれど、しばらく無かったことにして貰おう‥‥と思ったのだ。
ちょっとした、つまらない事にしておいて貰おう。

そんな少し急ぎ気味の足取りで通りへと出れば、やはり予想した通りの人通りの多さに出逢う。
噴水の周りで話し込む人々、目的の場へ向かったり、荷物を運んだりと行き交う人々‥‥。
何もかもが久しぶりで懐かしい。
その中で、特に懐かしく親しみのあるものを見かけて、目が留まる。
そう、それは‥‥。
「——おう、セッちゃん!セッちゃんじゃねえかい?」
視線を少し上、建物の中ほどに掛けられた看板を見ていた私に、その下から声が掛かった。
反射的に目を向けると、笑顔で手を振る人が快活な笑い声を挙げていた。
「‥‥あ‥‥アースミスさん」
今日の目的の場でもある酒場の店長、アースミスさんだ。
思わず、じんと胸が熱くなる。
以前、此処を発つ前に良くして貰ったきりで、この人に会うのも本当に久しぶりだ。
自然と小走りに駆け寄ると、肩をポンポンと叩いて豪快に笑って迎えてくれた。
「いやあ、元気だったかい?‥‥ま、ちょっとはアツシ君から聞いてるけどね」
ずっと変わらない笑顔のまま、少し背中を押されて。
「さあ、入んなよ」
そう勧められながら、久しぶりに酒場の中へと入る。
ちょうどお昼前だけれど、人が誰も入っていない。
いつも此処は、食事を愉しむ人々で賑わっているのに‥‥。
そう思って足を止めてしまっていると、さらにぐいと背中を押された。
「此処じゃなくて、上へ上がってくれるかい?‥‥おーい、ネッティ」
調理場のある奥の方へ店長が声を掛けると、この店お馴染みの女性店員のネッティさんが小走りに出て来て、迎えてくれた。
「‥‥ああ、セッちゃん、久しぶり!」
笑顔でそう声を掛けてくれた彼女に、挨拶を返す暇も無く。
「早速で悪いんだけど、付いてきてくれる?アツシ君は待っててね」
「‥‥あ‥‥」
言われるまま手を引かれて、いつもは立ち入れない奥へと通された。
後ろで彼も、少し戸惑いながら、はいと小さく返事をしているのが聞こえる。
‥‥どこへ、何しに行くんだろう?
半ばぽかんとしながら、ネッティさんに続いて階段を昇る。
上がった先にあった扉を開けると、中は長椅子や机が置かれた居間のような部屋になっていて‥‥。
「——セッちゃん!」
入るなり、誰かが飛びついてきた。
勿論、姿を確認しなくても誰かは分かる。
明るい声、素早い身のこなし。
そして、私をそう呼んでくれるのは‥‥。
「ルゥさん‥‥!」
懐かしさと嬉しさに喜びが込み上げ、目頭まで熱くなってくる。
「ほんとにセッちゃんだ!‥‥良かった、会いたかった」
ルゥさんも今度は落ち着いた声で、しっかりとその腕で抱き締めてくれた。
「うん‥‥。ありがとう、ルゥさん」
私も腕を回し返して、少しの間再会の感慨に浸っていた。
ーーすると。
「良かったですわ、あの時は一時どうなる事かと」
「‥‥全くだ」
扉の開閉の音と共に、またも聞き覚えのある声が、背中の方から流れて来た。
ルゥさんから腕を離し、ゆっくりと振り返る。
二対のまっすぐな‥それでいて優し気な赤い瞳、そしてそれぞれ長さの違う銀色の髪。
まるで双子のようにも感じる、何も言わなくても息の合う二人。
「‥‥あ、ルインさん、イージスさん‥‥!」
「ふふ、お帰り♪」
二人は私とルゥさんに向かい合い立ち、それぞれに表情を緩めた。
「またお会いできて嬉しいですわ、セツナ様」
「‥‥全くです」
特徴ある二人の口調に頬が緩みながら、またもじわりと嬉しさが込み上げる。
此の二人にも、沢山助けて貰いながら冒険して‥‥最後は意識を無くしてしまいそれきりだった。
ルゥさんと同じく、どうしてももう一度会ってお礼を言いたいと思っていた――。
「‥‥さあ、セツナ様」
そのうちに私にぐっと近付いてきたルインさんが、いつかのように何かを両手で持って差し出してきた。
「‥‥これは‥‥?」
おずおずと受け取ってみると、それは何かさらりとした白い布地の‥‥。
「早速で申し訳ないですが、其方に着替えて頂けます?」
拡げてみると、何だか丈がとても長く、広く金糸の刺繍の入ったローブで。
「‥‥え、こんなの‥‥いいんですか?」
買ってきてくれたのか、作って来てくれたのか。
思わず遠慮したくなるほどの衣装で、訊き返してしまう。
「ええ、勿論ですわ。それを着て頂かないと始まりません」
「‥‥うむ。」
「ほらほら、早く♪他にもまだ準備あるしね~」
口々に言われながら促されて、皆の顔を見回しながらおずおずと頷いた。

一体、この後ーー何があるんだろう?
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